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第5話

土手につくと日は少し傾いていて、たぶんチームメイトたちは学校に着いた頃だろうと思う。 スマホを見ると、キャプテンからは分かったから気にせずにゆっくり帰ってこいとだけ返信があった。 「リツ、ミット」 矢倉がポイッと自分のミットを投げ渡してくる。 あれが最後の投球なのは変わらないのに、何をしたいのか俺にはわからない。 拒めないのは、矢倉が必死な眼差しだったからだ。 俺のサインに首を振ったことにずっと引きずられている。 「キャッチャーミットじゃないから、力いっぱい投げるんじゃねえぞ」 腰を落としてしっかりと脚を開いて構える。 「投球じゃなくて、キャッチボールがしたい」 俺に立って受けろばかりに、距離をとる。 意味が分からずに腰をあげ、首を捻って矢倉を見返す。 「リツが、声も掛けずに帰るから不安だった」 「だから、悪かったって言っただろ」 軽く投げられた白い球をパシッと受け止めて、俺は投げ返す。 「リツに嫌われたら、オレ死ぬしかない」 「アホ、わけわかんねえ事言うな」 振りかぶりながら、綺麗なフォームで投げ返してくる。 これまで沢山矢倉の球を受け止めてきたのに、こういう球はあまり受けたことがなかった。 こんな球種は、キャッチャーへ投げられることなどない。 「オマエと一緒に甲子園いきたかった」 「俺も同じだ」 会話を交わしながら、何度も白い球が行き来する。 「甲子園行ったら、いろんな夢が叶うと思ってた。なのに、最後なんてヤダ」 「プロにスカウトされてるんだろ。朔矢は最後じゃねえだろ」 職員室に何度も呼び出されているのを知っている。 矢倉にとっては高校は通過点でしかない。 うちのような弱小チームがここまでこれたのは、投手力だと分かっている。 「されてる。でも、リツと甲子園で投げたかった」 「うるせえ、負けたから仕方ねえだろ」 珍しくグダグダ言い続ける矢倉に、ボールを強く投げ返す。 矢倉はそれを掴んでグッと握り締めて、ボロボロとまた泣き出す。 涙が止まらないようだが、今日だけは仕方がない。 肩を落として駆け寄ると、矢倉の肩をぽんと叩いて首を横に振った。 「言い過ぎた」 「.....わかってっけど。オレ、リツに投げたくてこの高校きたんだよ.....」 矢倉は俺の腕をギュッと掴んで、涙に濡れた目で見上げた。 「三年前の中学の県大会の決勝でオレら戦っただろ」

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