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第6話

中学の県大会で今日と同じように僅差で矢倉のいた高校に負けた。0×1だった。矢倉の投球を誰も捉えることができなかったのだ。 高校に入ってあの時の投手が同じチームメイトだと知って、単純に嬉しかった。 あの誰も寄せ付けない球を受け止められると期待で胸がいっぱいになった。 「あの試合には勝ったけど、オレは相手の投手が羨ましかった。リツのリードや組み立ては完璧で、うちの学校が点をとれたのは、ピッチャーの投球ミスと外野のエラーでのラッキーでしかなかった」 「覚えてるよ」 グッと矢倉がミットを強く握りしめるのが分かる。 「リツにリードして欲しくて、いろんな高校から誘いがきたけど、リツをとれた高校に行くって言ったんだ」 中学からそんな駆け引きをしていたとか、正直驚いた。だから、準優勝だったのに、私立高校からかなりの誘いがあったのか。実力だと勘違いしていたが、矢倉の仕掛けたものだったことに、何故か納得した。 「なのに、最後の最後でオレはリツのリードを無駄にした。あんなに、欲しくてたまらなかったのに」 俺はなんとなく、矢倉の背中を軽くたたく。 正直、最後のサインは迷っていたから首を振られて安心していたのもある。 全部が矢倉のせいではない。 「甲子園に出て最後の試合終わったら言おうと思ってたけど、オレ.....リツが好きなんだ」 「あー、俺も好きだぞ。いいバッテリーができた」 真剣な眼差しにその背中を擦りながら返す。 2年半だったが、矢倉は俺のリードで正確な投球をしてくれた。豪快、剛速球と言われていたが、矢倉の球は本当にコントロールが良かった。 ガバッと矢倉は体を俺に向けて、肩をぐいと抱き寄せる。 太い腕に力任せに引き寄せられ、突然のことに俺も動けなくなる。 「違う。違うんだ、オレはリツのこと、なんていうか、えっと、性的な感じで好きだ」 性的な、感じ?! 俺は一瞬目を見張って、目の前の矢倉の顔を見返すと、顔を真っ赤にして視線を泳がせている。 ここは、友情を確かめ合う場面かと思ってたのだが。 「.....せい、てき?ね」 「なんか、こー、うーん.....」 抱き寄せられたままの腕が震えてきている。 炎天下の河原ですることじゃない。汗がダクダクと垂れ落ちる。 「朔矢、落ち着け。とりあえず暑いから離せよ」 俺も落ち着けって思うが、不思議に悪い気はしていない。 「や、ヤダ、もうこんなこと出来ない。もう少しだけ」 矢倉は、今日再び俺の出した提案に首を振った。

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