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第7話

別にこういうのは嫌じゃないなと、矢倉のデカイ体に抱き込まれぼんやりと思う。 押し付けられる胸板から伝わる心音がバクバクと煩い。 性的な対象か、それってそれだけじゃないよな。 こいつの考えや気持ちがあってのそれだよな。 「最後にしねえでいい。今は、暑いし離れろ。今離さないと、本当に最後にする」 とんと強く胸板を押すと、矢倉は俺の顔を見下ろし暫く考えてから渋々と体を離す。 「ごめん、最後と思ったら.....」 いつもは何も動じないのに、俺を見返しながらべそをかいた表情をする。なんだかひどく新鮮な気がして、矢倉のミットを奪って荷物に突っ込み腕を引く。 「リツを見てるとドキドキして、たまんなくなるんだ。いつからかは忘れたけど」 「あー、そうか」 「男のオレに言われても迷惑、だよな」 矢倉に荷物を持たせると、腕を引きながら土手をあがる俺に必死で言い訳のような言葉を投げてくる。 自分がどうしたいとか、わからない。 矢倉の言葉に、自分は違うともいいきれない。 高校を俺で決めるくらいに執着されているだなんて考えたことはなかった。そして、それを聞いて嬉しいとか考えちまっている自分がいた。 バッテリーを組んだ相棒とかそういうだけじゃなく、なのかも分からない。 「別に、嫌じゃないけどな。でもよ、性的とか、そうじゃなくて、別の言葉があるんじゃないか」 俺はぶっきらぼうにそういうと、元きた道を戻り駅へと向かう。 別にロマンチックな言葉とか求める気はないが、気持ちの問題だ。 「えーと.....下半身的な、好きだ」 飛び出した答えに、俺は矢倉の頭を思わず叩いていた。 「朔矢.....」 思わず憐れむように俺は矢倉の顔を見返す。 「どう言えばいいんだよ」 「別に、もう言わないでいい」 多分それ以上聞いても、なんだか矢倉が可哀想になってしまう。 黙っていれば、多分矢倉はモテる。野球部のエースで、しっかりとした体格だが、顔はむさ苦しくはない。応援にくる女子もよく見かける。 電車の切符を自宅まで2枚買うと、1枚を矢倉へと渡す。 「ここ、寮の最寄りじゃない」 切符をじっと眺めて。不思議そうに首をひねる矢倉に、俺はつっけんどんに返す。 「そうだな。俺のアパートの最寄りだ。どうせ、寮には帰りたくないだろ」

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