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第8話

母親が海外出張なので、俺がアパートに住んで留守を預かっている。片親ということもあり、俺は寮に入らずに一人暮らしを認められている。 特別待遇だが、高校から許可が降りたのも矢倉の条件である俺が欲しかったのだろう。 色々考えると妙に得心がいく。 「リツの家って、こんなとこなんだ。結構片付けてるんだな」 ぐるぐると見回す矢倉に、こそばゆい気持ちになる。 「とりあえず、汗だくでやべえからシャワー浴びてこいよ」 「そ、そうだな」 何となく矢倉を連れてきてしまったが、モヤモヤしたまま夏を終わらせたくないのが大きな理由だった。 レストランのデリバリーに電話してパーティセットを頼む。 嫌じゃないとは思ったが、矢倉に応えられる気持ちなのかは分からない。だから、ちゃんと確かめてから返事をしてもいいかと思った。 不思議に、あまり男同士とかは気にはなってない。 部活優先で女子とも付き合ったこともなく、恋愛なんかしたこともない。 ひたすら甲子園にかけていた。 何もなくなった今、俺には足枷はなかった。 自分のスエットでは矢倉には少しだけきついかとは思ったが、他にはないので脱衣場に置く。 多分矢倉はなにも考えてないだろうから、ちゃんと俺が意思表示しないと駄目だ。 意識なんかしたことがない相手に、恋情を抱けるかだなんて分からないけど。 誠意には誠意で返すべきだと考える。 さっぱりとした顔で、俺のスエットを着て浴室から出てきた矢倉に、笑みを返して座っててと告げて俺も浴室に向かった。

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