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第9話

飯を食べた後、矢倉を部屋に入れると落ち着かなそうに並べた野球のDVDを眺めている。 人に下半身とか言っておいて随分奥手のようだ。よく告白されているのに、彼女もいたことないのは知ってる。 俺はぽんと矢倉の肩を叩くと、焦った表情にぶつかる。 「朔矢、正直よくわかんねえよ。下半身言われてもさ、ときめかない」 真っ直ぐに矢倉を見返すと、視線が彷徨って心もとないように視線を逸らす。 「ごめん。迷惑なのは分かってる。ちょっと、負けてヤケになってた。.....わ、忘れて」 俯いた表情が酷く強ばっているのが分かる。最初から振るつもりなら、土手でそう告げていた。ここまで連れてきた意味なんて、理解できないのだろうな。 「忘れらんねえよ。そんな軽い気持ちで言ったのか」 「ち、違う」 「だったら、教えてくれ。それからダメかどうか判断する」 胸の奥に燻った気持ちを、白黒はっきりさせないと気が済まない。 決着をつけないと前に進めない。 因果な性格だ。 「い、いいの?」 確認をとるように、矢倉は俺の腕を掴むと引き寄せて抱き寄せてくるのに、俺は頷く。 つきあうとか、そういうのは後回しでいい。 普段はボールを握っている節だらけの堅い皮の指先が俺の頬に触れ、ゆっくりと顎を押さえ込まれる。 不思議に恐怖とか嫌悪感もなく、斜めから落ちてくる矢倉の唇に軽く唇を開くと、肩甲骨あたりをぐいと寄せられ、舌先が口内に入り込む。 いつ、どこでそんなことを覚えたのかと聞き返したいくらい、ねっとりと絡みつく舌先の動きにじくじくと熱がたまっていく。 鼻からの呼吸が早まり、体温が急に上昇したかのように熱が這い上がってくる。 もってかれそうだ。 頭がぼんやりとしてきて、自分の肌がざわつくように矢倉の動きを追い始めたのを感じ取り、この熱を逃して欲しいと願った。

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