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第11話 藍に乱点(1)
今日は寄り道しないで帰るように、とホームルームでわざわざ担任の先生から注意があったので、なんだろうと思っていたら、部活を終えて帰りを待つバス停でわかった。
重いかばんを持つ僕たちの視界を、色とりどりの浴衣や長い髪を金魚のようにひらひらさせた女の子たちが何人も横切っていく。それにつられるように、若い男たちも同じ方向に流れていく。
「輝国 神社の六月灯 って、今日だったんだ」
バスを待つ同じ学校の誰かが言うのが聞こえた。
七月半ばから終わりにかけて、「六月灯」というお祭りがある。六月といっても旧暦の六月だから七月、神社で行われる。
日が暮れた境内にたくさんの灯籠が吊され、ぼうっと光っている。その中を、神社にお参りしたり、夜店をひやかしながらぞろぞろ歩くだけ、という夜まつりだ。
「たまには行ってみたいよね」
はしゃぐ声を上げるのは水泳部副部長の佐野。童顔で小柄な佐野がりんご飴なんか持ってると、小学生で通るかもしれない。
「小園さんと行きたい」
ぼそっと呟く山田島は、最近、同じ水泳部の女子とつきあいはじめた。うらやましいけど、話を聞くと意外と面倒くさそうで、男同士で遊んでるほうが気楽でいいなあ、と負け惜しみでもなく思ったりする。
県内最大規模といわれる輝国神社の六月灯には、やんちゃな人々と市内全域のPTA補導員と県警の少年課が集結する。とてもじゃないが、そんな危険地帯には近寄れない。佐野も山田島も言ってみただけだ。
卒業するまでの我慢。
みんなそう思って、暑い季節が過ぎるのを待っている。
でもたまに、夏は永遠に続くように思えて、息苦しくてたまらなくなるときがある。
ひらひらと泳ぐように神社に向かう人たちは、まるで別世界の生き物のようだった。
僕は――たぶんバス停に立つ僕たちは、海の中を漂うガラス玉に閉じこめられた魚になったような気分で、自由に泳いで遠ざかっていく涼しげな彼らを見送っていた。
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