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第12話 藍に乱点(2)
〈今度の水曜日、八幡神社の六月灯に行かない?〉という先輩からのメッセージが入ったのは、その翌週の日曜の夜のことだった。
なんとなく声が聞きたくなってメッセージするかわりに電話してみたら、「これが最後かもしれないから行きたいんだけど、友だちには声をかけづらくて」と先輩は少し困ったような声で言った。
進学で県外に出て、そのままそこで就職してしまったら、六月灯に行くことなんて、もう二度とない。受験でぴりぴりしている三年生の友だちは誘いづらく、といってお祭りに一人で行くのはさびしい。だから二年生の僕に白羽の矢が立ったということなんだろう。
「先輩んちの近くのあの神社ですよね? あそこなら補導もゆるいか……な?」
「純生、そんなこと気にしてるの?」
先輩は笑うけど、警察官の息子としては、補導なんかされようものなら卒業まで小遣い停止処分をくらうことは間違いない。今の僕にはそれが何より恐ろしい。
「何でも好きなもの、おごってあげるからさ」
「じゃあ、白くま食べたいです」
反射的に答えてしまったのは、昨日見たローカルテレビの夏デザート特集のせいだ。メディアの力、恐るべし。
でも、六月灯で白くまは売ってないだろう、という想定の突っ込みはなぜか来なかった。白くまは普通お店で食べるもので、祭りの露店では見たことがない。
部活が終わってから僕が先輩の家に行く約束をすると、楽しみにしてる、と先輩は電話を切った。
先輩は、食い物で釣れば、僕が簡単に頼みを聞くと思っているんじゃないだろうか。
食べ物だけでもないんだけどな。
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