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第20話 藍に乱点(10)
「え? ……ああっ!」
僕は目の前の女の人と先輩を見比べる。確かに、先輩のお母さんにしては若い。色白いし、しわもない。どっちかというと兄の嫁さんに近い年のような。だけど、血はつながってないという割に、ぱっちり二重の目とか通った鼻筋とかちいさめの小鼻の形とか、よく見たら先輩にかなり似てるんだけど……?
「母さん、純生をからかわないでよ。純生、正真正銘、俺の生みの親だからね。そして後妻でもない」
「松元くん、信じた?」
笑い転げるお母さんと、あきれたように腕組みをしている先輩とは、似てるけど、やっぱり親子というより、親戚のお姉さんと年の離れた従弟のように見えた。よっぽど若くで先輩を産んだのかなと考えていると、それを見透かしたように「こう見えて、四十すぎだからね」と先輩がちょっと意地悪な顔で笑った。
「ええっ、そうなんですか! すごい! 若いし、きれいだし!」
うちの母とはえらい違いだ。ほんとにびっくりした。
あんまりびっくりしてたら、先輩のお母さんは「松元くんていい子ねえ」と僕の頭をなでた。子ども扱いされてちょっと恥ずかしいけど、悪い気分じゃないのは美人だからだろうか。
それからお母さんは「かなめっちは、かわいくなーい」と先輩にデコピンをかまして、先輩はおでこを押さえながら笑って、僕もつられて笑ってしまった。家族っていう感じがした。
「それで何の用? 噂の可愛い後輩を見せびらかしに来ただけ?」
さっきの先輩とそっくりな、ちょっと意地悪な顔でお母さんが笑った。
噂ってなんですか先輩!
慌てて振り向くと、一瞬だけ赤くなった先輩は、すぐになんでもなさそうな顔で「写真撮ってもらおうと思って」と自分の携帯をお母さんに渡す。
なんとなくわかってきた。
学校では温厚かつ冷静と言われてる先輩だけど、家で隙を見せると、こうやってお母さんにいじられるから耐性がついたんだろう。よく見てると、なんでもない顔をする前に、顔色が変わったり、ちょっとだけ気持ちが出るみたいだ。
そして、黄色いTシャツの先輩と藍色の浴衣を着た僕と、二人並んで先輩のお母さんに写真を撮ってもらうことになった。考えてみたら、二人で撮った写真なんてなかったから、いい機会だったかもしれない。データは後で先輩が送ってくれると言った。
仕事が残ってる働きもの(先輩によれば、単にやるべき仕事を忘れていたうっかりもの、らしい)のお母さんを事務所に残して、僕たちはエレベーターで五階の先輩の家に上がった。ビニール袋の中から、はし巻きとイカ焼きのソースのいい匂いがしている。
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