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第22話 藍に乱点(12)
「一応キモノ(というか浴衣)着てる僕がくるくるされるのはわかるとしても、僕、腰元っていうタイプじゃないですよ?」
どうせ着替えなきゃいけないから、その途中でついでにくるくるされるのは問題ない。でも、腰元というのはもともと武家の出とかなんだから、品のある娘さんに決まってる。残念ながら僕はそういうタイプじゃない。いいとこ、そば屋の町娘風情だ。そう思って訴えてみたけど。
「浴衣で腰元もないか。じゃ、悪代官と村娘でもいいよ」
先輩はノリノリだった。
くるくるされるということは、パンツ一丁になる、ということだ。リビングでそんなことしてて、先輩のご家族にうっかり見られてしまっては困ったことになる。
というわけで、僕たちは先輩の部屋に移動した。先輩の部屋は六畳くらいだから、ダイナミックには難しいかもしれないが、こじんまりとくるくるするには問題ないだろう。
僕が着てきた制服も、先輩の机の上にたたんで置いてある。僕としてはさっさとくるくるを済ませて着替えるつもりだった。
「殿様と腰元ごっこ」あらため「悪代官と村娘ごっこ」、開始。
ベッドに座った先輩が、「近う寄れ」とにんまり笑った。Tシャツだし若いし細いしイケメンすぎるし、あんまり貫禄のない悪代官さまだった。でも、僕だって、手篭めにされる村娘にしては可愛くはないのだから、お互い様だ。
どうしたらいいかわからずに黙って先輩の横に座ると、「もそっと近う」と言いながら、僕の肩に手を回してきた。そのまま、後ろから浴衣の胸元に手を突っ込んでくる。ここまでやりますか先輩!
「お代官さま、おやめください」
立ち上がって胸元をかき寄せる。オカマ声が我ながら気持ち悪いが、先輩は立ち上がって僕に迫る。
「良いではないか、良いではないか!」
いつもは爽やかイケメンなのに、この時ばかりは「ぐへへへ」という笑い声が似合いそうだった。
レイプ怖い。イケメンでもキモイ。
背を向けて逃げる(ふりをする)僕の帯を手早くゆるめ、先輩は帯の端をぐいっと掴んで引っ張った。
今だ!
「あーれー」
帯に袖が引っかかるので当たらないように両手を上げ、ゆっくりくるくる回って部屋の床に倒れこむ。そこに先輩が馬乗りになってきた。体重をかけないようにしてくれてるし男同士だから危機感もないけど、僕の浴衣は見事にはだけていて、本物の女の子だったら絶体絶命のピンチだ。
先輩は僕の肩の横の床に手をついて、のしかかるような姿勢になった。僕はまっすぐ仰向けに先輩を見上げる。意外に真剣な先輩の目と僕の目が合う。
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