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第23話 藍に乱点(13)
ここまでが限界だった。同時に吹き出す。僕は寝ころんだまま、先輩は床に座り直して笑い転げる。
「純生、お前、まじめにやれよ!」
大笑いしながら、先輩は涙まで出ている。
「だって……」
起き上がりながら、僕もおかしくておかしくて、笑いが止まらない。何がおかしいのかよくわからないのに。
しばらくして発作的な笑いが落ち着くと、先輩が「もう一回やる?」ときいてきた。特に異存はない。くるくるされるの、ちょっと面白かったし。
「いいですよ」
僕は立ち上がって浴衣の前を合わせ、適当に帯を巻く。余った端を巻いたところに挟むようにして止め、止めたところをぐるっと背中に回す。ちゃんと着付けてないから、脱がされる前からすでにあちこちゆるんでいるけど、それはせくしーということにしよう。
「近う寄れ」
ベッドの先輩が手招きをする。
「はい。お代官さま」
ああっ、側に座っただけでもう襟がゆるんでお腹まで見えそうだ。胸元を押さえる僕の手を悪代官が引きはがしにかかる。
「いやん」
精一杯語尾にハートマークを付けつつ、ベッドから立ち上がって対角方向に逃げると、「待たぬか」と追いかけてくる。狭い部屋の中だからすぐに壁際に追いつめられる。逃げる隙を与えないように、がしっと壁についた先輩の両腕で囲まれて、僕は固まった。そういえばこれっていわゆる、壁ドンの体勢?
「どうする?」
そんなこと言われても困る。すると目の前で先輩は邪悪に微笑んだ。
「逃げないの? 逃がさないけど」
逃げればいいの? 逃げちゃダメなの? 僕はどうすればいいんですか! ていうか、顔近い顔近い顔近い!
思わず目をつぶると、先輩が体を押し付けてきた。腰に手を回され、耳に生暖かい息がかかって、背筋がぞわぞわする。そのとき、帯がひっぱられて掴まれる感じがした。
今だ!
「あーれー」
くるくる回りながら、大の字で床に倒れこむ。先輩は壁際に立ったまま、少し驚いたような顔をして僕を見ていた。つかんだ帯が床に垂れているのも間が抜けていて、僕はそれを見てまた思い切り笑ってしまった。先輩もつられて笑い出す。
「ダメだなあ」
しばらく笑ったあと、先輩は自嘲するように言った。それから空気が抜けた風船みたいに、ずるずると背中で壁を擦りながら床に座り込む。
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