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第25話 藍に乱点(15)

「ほら、早く」  目を伏せたまま、先輩が急かす。 「はいっ。ち、ちこうよれ?」  ぶっ、と先輩はふき出しかけたが、「はい」と高めの小さな声で返事をして、僕のほうに身体を寄せた。  ええと、次は……。 「よいではないか!」 「……純生、抱き寄せるのが先」  小さな声で先輩がアドバイスをくれる。 「あっ、はい!」  がばっと抱きつくと、なんだか違うような気が……? 「……お代官様が村娘の胸にすがってどうするの? 逆だろ、逆」 「はいっ」  今度は先輩の頭を少し押さえるようにして、抱き寄せた。なるほど、相手の頭が自分の頭より下になるわけか。ますます本物の女の子を相手にしてるみたいで、どきどきする。僕の胸にくっついた先輩の顔も、なんだか熱く感じる。 「お止めください、お代官さま」  先輩が僕の身体を押しながら立ち上がり、逃げようとした。 「待て!」  後姿の、帯をつかんで、ぐいっとひっぱる! 「あーれー」  浴衣の先輩はくるくる回って、床の上にぱったり倒れた。  えっと、ここで押し倒すんだっけ。押し倒すというかもう倒れてるけど。  近づくが、先輩は目を閉じたまま動かない。 「……先輩?」  あれ? 胸、動いてなくないか? 息、してない?  慌てて頚動脈を探ろうとするが上手くいかない。直接、胸に耳を当てる。鼓動は聞こえる。早い。  こういう場合って、あれだよな。前に父に強制参加させられた、救命救急講習の……。  僕がもたもたしているうちに、息を大きく吐く音が聞こえた。 「人工呼吸はしてくれないの?」  僕の髪に先輩の指が差し込まれた。 「……してもいいですけど」  僕は上体を起こし、横たわったまま僕を見上げる先輩の首の後ろに手を入れた。そして、あごをぐいっと押し上げてのけぞらせる。仕上げは、首の後ろにできた空間に丸めた帯を突っ込む! 「気道確保! よし!」  指差し確認したら、左手に利き手の右の手の平を重ねて、肘をまっすぐ伸ばす。先輩の乳首と乳首の間あたりに手のひらをセットし、相手の身体に対して自分の腕が垂直になるようにする。 「ちょ、ストップ!」  思い切り体重をかけようとしたところで、腕をつかまれ制止がかかった。 「心臓マッサージはいいって!」 「人工呼吸と心臓マッサージはセットですよ」 「絶対痛いだろこれ」 「お年寄りとか、骨の弱い人だと、肋骨折れるらしいです」  ぎょっとしたように先輩が飛び起きる。

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