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第3話
「政のトップをライター代わりにするなんて」
「俺だけの特権だよ」
「困った御方だ」
「一本だけ」
「では、これを」
ふわんっ
漆黒の空に白いマントが舞った。
羽のように。
一瞬だけ見とれた、隙。
「あっ」
「どうしました?」
(……触れられるのかと思った。)
艷やかで長い黒髪が触れられそうな距離に彼は立って、そっと肩にマントを落とした。
(……なんて言えない)
「夜風は冷えますので」
少しだけ勢いを落とした風に、マントが揺れる。
分かれた火も淡く揺れている。
雲間から、ほんの僅かに欠けた月がバルコニーを照らした。
「今夜は十三夜。早くベッドに入らないと、魔物に食べられてしまいますよ」
「子供を寝かしつけるおとぎ話だな」
満月へと近づく十三夜。
魔将十三人の使徒が世界を蹂躪する。
そして、満月を迎えた空。月食の夜。
魔王が甦る。
……なんて。この歳になって。
信じるものはいない。
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