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第8話 十三夜の政略結婚

 ランハート……  そう呼びかけて、声を殺した。もうその名前もどこか遠くに感じて。  呼んでもきっと、返らない。  俺の想いは、もうどこにもない。  いつから見えなくなってしまったのだろう。  日常のごく当たり前の景色。  たった今まで、ここにあったのに。  もう届かない場所に行ってしまった。  見えているのに、もう見えない。  バルコニーにライトが照りつける。  上空をヘリコプターが飛び交っている。  逃げ道はない。 「父上は?」  大切な思い出がある訳ではないけれど。聞いてしまうものなのだろう。きっと、こういう時って。 「私とて人道は尊重したいものです」  彼は言っている。  運命は俺の答え次第だと。 「何をすればいい?」 「一つ。お約束頂ければ、後は私が取り計らいます」  飲むしかない。  父のためではない。  国のためだ。  答えは決まっている。 「無条件で要求を飲む」 「では……」  プロペラの巻き上げる強風が、十三夜の月を覆った。 「婚約破棄を。そして、私の妻におなり下さい」  そして、差し込んだ月明かり 「この国を守るためりたいのでしたら、ご賢明な選択を」  あなたに提示する条件は『政略結婚』です。  エエエェェエエーッ!!

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