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第9話
えっと、ちょっと待ってェェェーッ!
思考が予測の範囲を超えている。
脳の情報処理が追いつかない。
「ランハート!」
「はい」
「………」
「………」
「何か言って!」
「と、仰られましても。名前を呼ばれたので返事をしたのですが」
「そうじゃなくって!」
だって!
だって、だって。
俺は今、結婚の申し込みをされてるんだぞー!
結婚
それは人生最大の選択であって……
「俺がお前の夫になるって事?」
「妻です」
それ、どっちでもいいだろ!
「ランハートと家族になるって事?」
「そうですね」
固く結んでいた唇が僅かに綻んだ。
「嫌ですか」
……嫌ではないけれど。
「でも」
もし俺が婚約破棄したら、どうなるのだろう。
国土の多くが火山帯に位置する我が国は、食物がほとんど育たない。経済封鎖をされたら、たちまち食糧難に陥る。
そうでなくとも!
「国境を越えて攻め込まれたら」
「そのための警備です」
「しかし!」
上空を絶え間なくヘリコプターが飛んでいる。
「国境も通常の三倍に警備を増員しております」
「だが、それでも」
圧倒的な軍事力の差は埋まらない。
「全軍で攻め込まれたら」
一溜まりもない。持って三日だ。
「今すぐ軍を撤退させろ。外から見れば、我が国のしている事は挑発だ」
「ご案じなく」
フフ……
微かに口角を上げた唇を風が駆け抜けた。
「間もなく吉報が降りてくるでしょう」
バサッバサッバサササー!
轟音を掻きなでるプロペラ音よりも大きく響いて、なぜかその音だけは聞こえたんだ。
高らかな羽ばたきが。
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