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第10話 月に輝く翼

 月が降りてくる。  涸れた地上に。プロペラで蹂躪された夜空から、戦車の突き進む荒涼たる大地に向かって。  月が落ちてくる。  十三夜の欠けた月の輝きが。  降 り て く る ……  バササザザサァー  長い髪が月夜に流れた。  おもむろに跪いた男の背中には、大きな翼。  人じゃない! 「お待たせ致しまして申し訳ございません」  深々と頭を下げた男の髪が床に垂れた。  風が撫でて、サラサラ揺れる。絹糸のような髪は金と黒のアッシュだ。 「首尾は?」 「滞りなく完遂致しました」  彼の声に淀みはない。 「ですが、高貴なる陛下の御前に醜き首を晒すのは相応しくないかと思い、持参しませんでした事をお詫び申し上げます」

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