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第13話

「全ては陛下の思し召し。今宵の出来事は、お后様のための計画だったのですよ」  ブォン、ブォン、ブォン  欠けた月に吸い込まれるように、ヘリコプターのプロペラが舞う。  13 × 月 × 13  (ドライゼン モーント ドライゼン)  十三夜に暗躍せし魔将十三使徒  王の忠実なる下僕は、月のもとに集う。 「もっとも、あのような中身の伴わぬ虚ろな国如き、十三使徒《ドライゼン アポステル》の力を使うまでもありません。 私……」  《ドライゼン アポステル》第一席 「アウィン一人の力すらも持て余してしまう程でしたよ」 黒と金。長髪が月から降りてきた光になびいた。 「お前も……」 「えぇ、魔族です。この黒い翼を見ればお分かりかと」 「あの国は、魔族の手に落ちたのか」 「そうとも言えますが、そうでないとも言えます。我が王の御心次第。王の御心は、あなた様のお言葉次第です」 「アイル様」  王と呼ばれたこの国の宰相は、恭しく跪いた。 「あくまでも、正当な手段で転覆を企てました。ご安心を」 「転覆、って〜」  転覆に正当な手段があるのだろうか? 「………」 「アイル様?」 「あ、うん。話を続けて」 「隣国に潜入させた配下はアウィン一人です。魔族はほかに使っておりません」 「でも、それじゃあ!」  転覆なんて不可能だ。  彼らは王族。常に大勢の手練れが警護についている。暗殺の隙さえない。  いや。  暗殺できたとして、そんな事を行えば国際問題に発展する。  我が国は世界から孤立するだろう。如何なる理由があろうともだ。  アウィン一人でどうやって?  やはり暗殺なのか。それ以外、思い浮かばない。 「アイル様、国益を損なうような事態を今までに私が招いた事がありますか」 「それは……」  ランハートは優秀な宰相だ。実質、政のトップといっても過言でない。  ランハートが無謀な駆け引きで、国を窮地に追い詰めるとは思えない。 「しかし俺には謎が解けないんだ」  少数で打ち倒せる国ならば、そもそも俺達は今までこんなに苦しまなかった。 「この計画に時間を要しました事、お許しを。滅ぼすのならば、魔族全軍を投下すれば簡単です。ですが、それでは意味がありません」  月影から風がそよいだ。 「私は世界を敵にまわす」  足下に跪いた影は、静かに立ち上がる。 「故に、私を敵にまわせば国など簡単に引っくり返せるのだと、あなたに示す必要があったのです」  その月の光は薄く、どこまでも透明だった。彼の微笑みのように。

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