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第17話 ふわり
ふわり……
心地良い軽やかな香りが鼻孔をくすぐった。
(ダージリン……)
俺の好きな紅茶の香り。
この紅茶を好きなのは、どうしてだっけ?
……あぁ、そうだ。
あの人が付けている香りに似ているからだ。いつも、俺のそばにいて、いつも俺を支えてくれて、一緒に笑ってくれて、時に一緒に悲しんでくれる……
あの人と同じ香り。
フレグランスの香り。
でも、俺には触れてくれない。
触れられないから……
香りだけを好きになったんだ。
香りは触れられなくて。
でも香りはそばにいる。
そばに在る。
ダージリンの香り……
「お目覚めですか、殿下」
声は、ふわりと……
「我が妻」
悪戯に。
「そう呼んだ方がいいですね」
「わわッ」
言葉を失った心臓が跳ね上がる。
「フフ、そんなに飛び起きなくても」
「だって!」
ランハートが……
「その……」
「その?」
「あの……」
「その後の言葉の続きをお聞きしたいのですが?」
「……〜〜って〜」
「申し訳ございません。もう少し、大きなお声で」
うううっ、言わなきゃいけないのか。
「ランハートが……」
「私が?」
「俺を……妻、だって言うから」
フフ……と吐息が髪をくすぐった。
「笑うな!結婚は人生の運命を決めるんたぞ!」
「そうですね」
「ならっ」
「だから、あなたを選んだのですよ。アイル様、あなたを……千年待ち、千年の時を経て、あなたを探しました。ようやく、見つけました」
あなたは……
「私を討ち滅ぼした英雄であり、私が唯一愛した人」
あなたは……
「私を殺して、世界を救った勇者の生まれ変わりですよ」
「俺が、魔王を?」
千年前のランハートを。
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