24 / 56
第24話
……うぅん、それはちょっと違う。
手を伸ばす。
「俺は勇者だから」
天井。
その間にいる、お前
「ランハートがほしい」
指先が頬に触れた。
「俺がお前を手に入れたい」
手の平で頬を包む。あたたかい。ランハートは魔王だって言うけれど、幼い頃、手を繋いでくれた……あの日の温もりと同じ匂いがした。
夕暮れの冷たい風から暖めてくれた、春の陽だまりのような優しい手。
大きな手が俺を王城まで連れて行ってくれた。
城が俺の家だったんじゃない。
ランハートのいる場所が、俺の帰る家だったんだ。
ねぇ……
お前がもしも、俺のものになったら、お前はもう二度と悲しい死を選ばずに済むのかなぁ?
だって、お前は俺のものだから。
「お前の命も俺のものだよ」
「アイル様……」
唇が声にならない吐息を落とした。
「だめ、かなぁ?」
恐る恐る口を開いた。
ランハートは答えない。何も言わずにただ、俺を見つめている。
月光のように淡いシラーのかかった眼差しで見下ろしている。
「勇者様を我がものにしようとする想いの方が、おこがましかったのかも知れませんね」
頬を包んだ俺の手に、大きな手が重なった。
「我が心は千年前から、あなた様のものです」
ともだちにシェアしよう!