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第25話 鐘のロンド
♫♪♫♪♫♪♫♪♪♫♪♫
どこからともなく優しい音色が降りてきた。
窓から?
空から?
月から?
「この曲は……」
「『鐘のロンド』です」
「悪魔の曲だ……」
聞く者を虜にする曲だと云われている。この曲を弾く者は、悪魔に魂を売り渡すのだと。
人々恐れられ、忌み嫌われる曲を王都の演奏家で弾く者は誰一人としていない。
それなのに。
(なんて美しい曲なんだろう)
音色の一つ一つが砂粒のように、零れていく。
零れ落ちた砂粒が、思い出となって心の一番深いところに注がれて、降り積もっていく。
哀しくも美しい調べ。
この曲に込められているのは、憧憬だ。
憧れ、請い求める想いが結晶となって紡がれていく。
過去の想いが、未来まで……ずっと、ずっと、ずっと。
熱く、優しく、切なく。
「ハープなのか」
夜の帳から聞こえる、この楽器の正体は。
けれどハープの音は繊細で、どんなに強く弾いても、ここまで聞こえない筈だ。
「魔力を込めて弾けば、遥か遠く、千里の彼方まで響く音色を奏でる事も可能でございますよ。ハープを奏でているのは、アウィンでしょう」
「あの綺麗な魔族の人」
「私の面前で、私以外の者の容姿を褒め讃えられると少々嫉妬してしまいますが。アウィンは最も私の魔力を濃く継いでいる者ですので、仕方ありませんね。遠回しながら、私への賛辞だと受け取っておきますよ」
「ランハートって、嫉妬深かったんだ?」
全然そんなふうに見えないんだけど。
「あなたがお気づきでないだけですよ。但し私が嫉妬するのは、あなたに関してだけですが」
ドキドキ
胸が早鐘を打ってしまう。
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