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第27話
違う。
否定したいのに、何を否定すればいいのか分からない。
ランハートの手を止めなきゃって思うのに。
「アヒャア」
「おや、失礼。気持ちいいところを、また引っ掻いてしまいましたね。お詫びに乳輪を……なでなで」
「ンフ、ホー」
「ご機嫌直して下さいましたか。良かった。おっと、私とした事が。右の乳輪ばかりを構って、左の乳輪を疎かにしてしまいました。左の乳輪も……よしよし」
「ハホー」
やめて。
言葉にしたいのに、声にすらならない。
「ンホ」
我慢しようとすればするほど、変な声が出てしまう。
首を振るけれど。
「こちらのお耳も可愛がってほしいのですね……チュ♥」
「ハホ!」
ほんとに違うのに。
俺、淫らな事したいんじゃない。
俺は、ただ……
「アイル……様」
「俺はただ、ランハートの気持ちを受け止めたい。そして、できたら……俺の気持ちも受け取ってほしい」
ぎゅっ
ランハートにしがみついていた。
抱きしめるなんて、カッコいいものじゃない。
ぎゅう……って。
小さな子どもみたいに。
ランハートを止めなきゃ。じゃないと、きっとランハートは傷ついてしまう。
俺は奢ってるのかも知れない。俺にそんな価値はないかも知れない。
俺が考えている程、ランハートは俺を大切に思ってないかも知れない。
でも、だからって。
もし、そうだとしても。
(俺がランハートを大切に思う気持ちが揺らぐ事はない)
わがままだね……
結局、俺がそうしたいからそうしてる……
俺はランハートに優しくない。
勝手な思い込みで行為を止めて。ほんとうはランハートは行為を続けたかったのかも知れないのに。
今夜、夜空に浮かぶ月と同じだ。
十三夜の月。
満ちる事のない月は、俺の想いと同じで。
「私の欠けた場所を埋めてくれるのは、いつもあなたですね」
チュ……
落ちてきた唇がそっと額に触れた。
「ありがとうございます」
うぅん。欠けた場所を埋めてくれたのは、俺も同じだよ。
ありがとう、ランハート。
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