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第32話
「さぁ、王子。お手を」
クルリと反転させられて、腕をランハートの背中に回す。
ふわり。くるくる、くるりん。
鐘のロンドの音色に合わせて、体が宙を泳いだ。
「私と一曲、踊って頂けませんか」
「二人だけの舞踏会だな」
微笑みが木漏れた。
今宵の舞踏会。
招待されたのは俺だけ。俺達だけが知っている、二人だけの舞踏会。二人だけの時間。
体が軽い。
初めて踊るのに、初めてじゃないような。自然と体が次の動作へと移る。
合ってるのか、そうじゃないのか、ランハートが合わせてくれているのか。
「王子、肩に手を」
ロンドのリズムに合わせて、華麗にステップを踏んだ。
「あぁ、どうして私は裸になってしまったんでしょうね。あなたと踊るのならもっとそれに見合う衣服を身につけるべきでした」
ランハートは上半身、着衣を脱いでしまっている。
「でも、その方が」
「あなたの鼓動も体温も、より近くに感じられます」
「あっ」
同じこと思ってた。
「とても嬉しいです。思いを共有できたようですね」
「もしかして、心の声聞こえてた?」
「はい」
にこりと綻ぶ笑顔が花のようだ。
「わっ!」
「ぎゅうっ」
たちまち体躯がランハートの逞しい腕の中に包まれてしまう。
身動きできない。
「苦しくはないですか」
こくり。
厚い胸板の上で頷いた。
「良かった」
……あなたの体温、もっと感じさせて下さい。
うなじにふぅ〜……っと。
息がかかった。
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