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第34話 α魔王の甘い罠

「私のフェロモン、感じて下さい」  フゥー  熱い息が耳朶を這った。  カッと耳が熱くなる。 「ランハ……」  くっつかれていたら気づかれてしまう。腕から逃れようと、身をよじるけれど。 「ダメです。まだ足りません」  ぎゅんっ  逞しい腕にもっと引き寄せられて、鼓動が脈打った。  内側から熱がうがつ。  体温が上がっていく。 「フフ……可愛らしいお人だ」 「からかうな」 「おや?また体温が上昇しましたね。私には分かりますよ」 「そんな事ない」 「強がりを。お可愛らしい王子様」 「可愛くなんてない」 「いえ。あなたは可愛いです。騎士団長として凛々しく勇敢でありながら、心はお優しく、Ωとして虐げられながらも常に国民の事を思われておいででした。だから、皇太子との婚約を決意されたのでしょう」  俺は…… 「国民のためでもある。だけど……」 「だけど?」 「ランハートがいるから」  お前が…… 「いてくれるから決心できたんだ。お前が国を守ってくれる。俺の生まれた国。育った国。お前と過ごした思い出を」  誰にも壊されたくない。  お前と過ごした場所、お前と過ごした時間、そこにはお前との大切な思い出が詰まっているから。  俺が守りたかったのは、国じゃない。  国だけじゃない。  ランハート…… 「お前自身を守りたかったんだ」  Ωの王子として、何もできない俺だけど。 「お前に何かを残したくって。俺だって何かを残せるって。お前に何かをしてあげられるのを見せたかったんだ」  ちょっとカッコつけすぎかな? 「わふっ」 「私だけの王子様」  ランハートの顔が見えない。  だって、大きくてあたたかい腕がぎゅっと俺を抱きしめているから。

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