37 / 56

第37話

 ドクンドクンドクンッ  心臓が跳ねる。止まらない。内側から左胸を強く穿つ。  ドクンドクンドクンッ (こんなに、きれいな顔して)  美しい相貌で、そんな事考えてたなんて! (性欲なんかとは無縁で、まるで感じさせないのに) 「それは如何なものでしょうか」 「えっ」  もしかして。 「俺の心、読んだ?」  口に出してないぞ。心の声はダダ漏れしてない。 「分かってしまうのですよ」 「魔力で?」 「いいえ」  緩やかに首を振った。 「アイル様を幼い頃から見ておりますので」  トクン  不意討ちすぎる。 (ちょっぴり喜んでしまったじゃないか) 「そんなお顔をなさると……」  大きな掌が右の頬を包んだ。  トクンッ  心音が跳ねる。  今の俺、たぶん顔が真っ赤だ。  トクトクトクトクッ  耳まで熱い。  ランハートに触れられた頬が火傷しそう。  こんな顔見せられない。  うつむくけれど。 「困りましたね。夫に逆らうとは。悪い妻です」 「でも」 「でも、じゃありませんよ。あなたは私のものなのですから、ちゃんと言う事を聞かなければ……麗しいお顔を見せて下さい」  恐る恐るそっと、顔を上げた。  穏やかな、しかし熱情を帯びた深い色の瞳が捕らえる。囚われる。 「覚えて下さい。あなたが見ている男こそ、この世界で唯一人、あなたを支配する男であり、同時に……」  唯一人。 「あなたのものになった男ですよ」

ともだちにシェアしよう!