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第46話
「ミュージックぅぅ〜、スタート」
パチンッ
指を鳴らすと当時に、ハープの音色が変わった。
(この曲)
切なく、儚く想いを寄せるのは……
「ルサルカ」
「そう。陸の王子に恋した水の精ルサルカが、人間になりたいと願い恋い焦がれる歌」
まるで人魚姫のようだ。
「アントニン・ドヴォルザークの『月に寄せる歌』です」
「すごい」
ハープアレンジで聞けるなんて。
てっきり、ドビュッシーの『月の光』か、ベートーヴェンの『月光』あたりがくるのだろうと思っていた。
(ムーンウォークだけに)
ド定番を敢えて外しての『月に寄せる歌』
結ばれぬ恋の行方を描いた絵画のような曲。哀しくも情熱的な曲。
ルサルカの気持ちが押し寄せて来る。
なんて素敵なんだろう。アウィンが編曲したのだろうか。
「妬けますね」
頬を指でなぞられ、ハットして見返った。
「私ではなく、アウィンの事をお考えでしたね」
「また心を読んだ!」
「おや、素直なお答えで」
(しまった)
「簡単に付け入る隙を与えて。王子は外交には向いていませんね」
「お前が魔力を使うから」
「そんなものを使わずとも、あなたの事は分かると教えた筈です」
ドクンドクン
鼓動を奏でる心臓が速度を増す。
ドクンドクン
これも魔王の魔力じゃないっていうの?
「あなたの事を理解しておりますが、もっと知りたいとも思っておりますよ」
チュッ
耳たぶにキスが落ちた。
「さぁ、私しか知らないあなたを見せて……」
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