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夢見る俺たちの春休み (5)

「……っていう夢を見たんだ……」  テーブルにおでこ擦り付けたまま呻いた俺の後頭部に降り注いだのは、 「ぶッひゃひゃひゃひゃひゃ!」  航生(こうき)の下品な笑い声と、 「酒が不味くなった……!」  三枝(さえぐさ)の酒くさい嘆きだった。 「おっまえ、欲求不満すぎな」  タブレットで注文を追加しながら、航生がイヒヒヒと下品に笑う。 「しょうがないだろ! 佐藤くんが……」  ーー世間は今日から春休みですね。  とか言うから……!  そういや、学校が春休みの時って何してたっけーーなんてノスタルジーに耽ってしまったばかりに、あんな夢を……いや。  百歩……いや、千歩……いやいや、一万歩譲って、それはいいとしても、 「お前らに言うんじゃなかった……!」  件の夢のおかげで寝不足でのまま出勤したら、やたら「顔色が悪い」とか「なんか悩んでんだろ」とか「聞いてやるから付き合え」とか心配してる風を装ってくるからうっかり感動して、でもいざ連れてこられてみたらしっかり居酒屋だし、自分たちはさっさと酒飲んで酔っ払うし……こっちは、素面100%で恥ずかしい告白させられてるってのに! 「佐藤くんには言わねえの?」  ウケケケ、と笑いながら、航生がジョッキを傾ける。  俺は、ごくごく上下する喉仏に怒鳴った。 「い、言えるわけないだろッ!」  だいたい、制服姿の俺とか、佐藤くんの後輩になった俺とか、そういう変態的妄想に耽るのは、佐藤くんの専売特許なんだよ。  それなのに俺まで参戦したら、もう収拾つかなくなるじゃないか! 「でも、教えてやったら大喜びの大興奮で、あーんなことやこーんなことしてくれんじゃねえ?」 「だ、だから、俺は別に欲求不満なんかじゃないって!」 「ふーん?」  航生はニヤニヤ笑ってから、スマートフォンを取り出した。  ビール片手に器用に親指を動かしながら、なんだかものすごくニヤニヤしているし、三枝は三枝で、淡々と枝豆を食べ続けている。  俺は、仕方なくグラスを手に取った。  喉に流し込んだカルピスは溶けた氷で薄まっていて、火照った思考をちっとも癒してくれない。  俺は、深いため息を吐いた。 「だから、酔っ払いは嫌いなんだよ……」    俺は、欲求不満なんかじゃないって言ってるのに。

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