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夢見る俺たちの春休み (6)
夜空を見上げ、俺は深いため息を吐いた。
やっぱり、日が落ちるとまだちょっと肌寒い。
酔っ払い二人は「ここからは大人の時間だから」とか偉そうなことを言いながら、闇の中へと消えてしまった。
こんな時は、ちょっとだけ寂しくなる。
これまでもこれからも、俺にはお酒を飲んで気持ちよくなる感覚はわからないし、友達のおもしろい話を肴にする醍醐味もわからない。
もういい年した大人なのに子供扱いされている気がして嫌だし、どんなに頑張ってもあいつらと同じ時間を共有できないのかと思うと、無性に悲しくなる。
だからって、またぶっ倒れてみんなに心配をかけたいわけじゃないから、無理にお酒を飲んだりはしない。
でも、心寂しくなって、どうしようもなく会いたくなる。
会って、ぎゅってしてもらって、よしよししてもらって、大好きって言ってもらって、いっぱいちゅーしてもらって、いっぱいペロペロしてもらって……って、そうじゃなくて!
俺はただ、会いたいんだ。
佐藤くんにーー
「理人さん」
重い足取りで歩き出した俺の背中に、優しい声が届いた。
振り返ると、そこにいたのは、
「佐藤くん!?」
家にいるはずの、大好きな人。
なんでここにと俺が口を開く前に、佐藤くんがツカツカと歩み寄ってきたーーと思ったら、ぐいっと手首を掴まれた。
「えっ!? ちょっ、待っ……!」
帰路とは反対の方向に勢いよく引っ張られ、足がこんがらがる。
転びそうになるのを革靴の側面を使ってなんとか耐えながら、ずんずん進んでいく大きな背中を必死に追いかける。
怒ってるんだろうか?
でも、なんでーー
「ぶっ……!」
突然視界が真っ暗になり、文字通り目と鼻の先に佐藤くんの背中があった。
しこたま打ちつけた俺の鼻の頭を心配するそぶりも見せず、佐藤くんは建物の中へと入っていく。
視界をかすめていくのは、日常とは似ても似つかぬ色鮮やかな風景。
ここって、もしかして……
「ラブ……うっ」
佐藤くんが、唐突に足を止めた。
思わずつんのめった俺の身体を背中で受け止め、目の前に現れた巨大なパネルを見上げている。
そこに並んでいたのは、たくさんの部屋番号とその写真。
や、やっぱり!
「ここってラブホ……あ、ちょ、だからっ!」
佐藤くんは慣れた手つきで部屋を選び、自販機よろしく出てきたルームキーを拾い上げると、また俺の手を引っ張った。
ちょうどやってきたエレベーターに押し込まれ、動き始めたのを感じたところで、今度は口を塞がれる。
分厚い舌が無理やり唇をこじ開けて入ってきて、喉の手前をなぞられて、思わずえずいてしまった。
「い、いきなりなにすんだっ……えっ?」
ようやく解放され呼吸を整えていた俺に突きつけられたのは、スマートフォンの画面。
LIMEトークに表示されているのは、見覚えのある名前と、
『理人が佐藤くんのエッチな夢見たらしいぜ?』
ご丁寧に、机に突っ伏した俺の後頭部の写真まで添えられていた。
ちくしょう、そういうことかよ!
「こ、航生のやろう……!」
「で?」
「へっ……?」
見上げた佐藤くんはいつもの佐藤くんと同じように笑っていて、でも、目の色がいつもの目の色とはまったく違った。
俺は必死に後ずさって、でもすぐにエレベーターの壁に背中を押されてしまう。
佐藤くんは、さらに笑みを深めて、俺との距離を詰めてきた。
「エッチな俺の夢ってなんですか?」
「そ、それはっ……」
「どんな夢?」
「あっ、ちょっ……ん!」
佐藤くんの舌が、首筋をねっとりと這った。
湿った息が肌の上に落ちてきて、俺の身体を震わせてくる。
佐藤くんは最後に音を立てて吸い上げると、俺の耳に火照った吐息を押し込んだ。
「全部、教えてください」
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