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第8話

 黒川と俺の家で海外ドラマを見てから数週間。あれから奴と会っていない。  あれだけアイツから絡んできていたのに、パッタリと来なくなった事に何かあったのかとラインを入れれば「しばらく会えない」とだけ返信がきた。  俺の周りの奴等は黒川が来なくなってから口々に俺に何故か?と聞くが、俺も詳しくは知らないと答えるしか無い。  最近まで黒川と一緒に過ごしていた時間が急に無くなり暇な時間が増えたが、かといってまたセフレと過ごそうとは思えず……、自分自身そんな変化に驚きながらも、大学が終われば講義やゼミの課題を大人しく部屋でしている。  一人で海外ドラマの続きを見る気にはなれないし、ましてや酒を一人で飲もうとは思えなかった。  「急に……なんなんだよ……」  理由も教えてもらえない事に、フツフツと時間が過ぎるにつれ怒りが込み上げてくるが、別に俺と黒川の間柄でそこまでになる自分も可笑しいよな?とブレーキがかかり、悶々と日々を過ごす他ない。  そんな日常を過ごしていたある日、久し振りに大学で黒川を見かけた俺は、自然とそちらに足が向いていて  「よぉ、久し振りだな」  中庭のベンチに一人座っている黒川の後ろから俺はそう声をかける。  俺の声が聞こえた黒川は、ビクッと肩をビクつかせてユックリと俺の方に顔を振り向かせると  「先輩、久し振り」  笑顔で答えようとしてくれた顔は失敗に終わったのか、ぎこちなくハハッ……と苦笑いを浮かべてすぐに俺から顔を反らすと、また正面に向いて小さく溜め息を吐き出している。  「何お前……、なんかあったの?」  いつもみたいな元気が無いコイツにそう言いながら、俺はベンチをまわって隣に座ると  「イヤ……何も無いけど?てか、疲れてる」  チラチラと黒川を盗み見れば、余り寝ていないのか会っていた時より顔色が悪く感じるし、隈も目立っているような……?  何が忙しくてこんな風になっているのか気にはなるが、答えたく無さそうな本人から無理矢理聞くのも違う気がして突っ込んでは聞かないが、普通に心配にはなる。  ………………、飯にでも誘ってみるか?  気分転換になるのか、ならないのかは解らないが……。  あれだけ一緒にいたが、いつも誘ってきていたのは黒川の方からだったので、いざ自分から誘うとなると少し勇気がいる。  俺は膝に置いていた手をギュッと固く握り締めると、スゥッと息を吸い込んで飯でも……と言おうとしたところで、黒川のラインが着信を告げたので、そのまま開いた口をつぐんだ。  黒川は着信の音にうんざりしたような溜め息を漏らして画面を見ると、一度小さくチッと舌打ちして  「何?」  あからさまに不機嫌そうな声音で電話に出ると    「は?…………、イヤ、終っただろ?…………ッ解った、解ったから」  言いながらおもむろに腰をベンチから上げて、「今から向かうって」と呟き電話を切ると俺を振り返り  「ごめん先輩、またね」  少し焦っているように俺に向かって片手を上げると、そのままスタスタと歩き出してしまった。  「お……ぅ……」  俺も奴の背中に手を振るが、黒川が振り返る事は無く……。  しばらく奴が歩いて行った方向をボーッと眺めていたが、張り詰めた糸が切れたみたいに俺はベンチの背もたれに頭を乗っけて  「なんなんだよ……」  上げていた視線を黒川が座っていたところへ落とすと視線の端に何かが映り、俺はそれに焦点をあてる。  ………………、多分黒川のノート。  肩に掛けていたバッグから落ちるのは不自然だから、見ていて入れ忘れたのだろうか?  ついさっきだから今すぐに追いかければ捕まるはず……。  俺はそのノートを掴んで黒川が歩いて行った方へと駆け出した。  どこだ?そんな遠くへは行ってないはずだ。  俺はキョロキョロと視線を泳がせながら、黒川の姿を探す。すると、少し遠くで誰かと話している奴の背中を見付け、俺はノートを持っている方の手を掲げながら名前を呼ぶために口を開くと、突然の旋風。  「ぅわッ」  風の勢いに両目を瞑り、上げていた手を下ろした俺は風が止んで目を開く。そうして下ろした視線を再び黒川の方に向けると  -------、ドクンッ。  視線の先に黒川と、話していた相手がキスをしている。  俺はその場に固まり足から根が生えたように動かすことが出来ない。  黒川がユックリと相手から距離を取って離れれば、その相手はあのカフェで会った猫目の美人だ。  「…………ッ」  そのまま二人は歩き出し、俺の視界から消えていく。

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