37 / 42

第六章 番外編 バレンタインデーにはチョコレートを③

「ンぅ……ふ、っう……」    もう何十分経っただろうか。延々後ろを慣らされている。颯希の指が緩慢な動きで胎内を這い回る。ぐち、ぬち、と耳障りな音ばかりが響く。そのくせ、決定的なところは突いてくれない。微弱な快感に燻され続けて、気が狂いそうだ。   「や……ふぁ、ゃ、もっ……」    前を擦って出しちゃいたいのに、後ろ手に縛られていて叶わない。何に縛られているかといえば、颯希がバレンタインでもらったチョコレートの箱を結んでいたリボンである。    こんな代物で拘束されて、千紘の独占欲はこの上なく満たされた。颯希にチョコをくれた女達は、まさかこんな風に使われているとは夢にも思うまい。    が、それはそれとして。我慢も限界だ。出したい。イキたい。前でも後ろでもどっちでもいいから、強く触ってほしい。そしたらすぐに気持ちよくなれるのに。千紘は腰をくねらせてねだった。こうすれば大概颯希はお願いを聞いてくれる。   「さ、つきぃ……♡」 「その声やめろよ」 「ね、ね、いきたいよぉ……♡」 「かわいく言ったってダメだ。朝までイかせねぇ」    もう一本リボンが現れて、ぱんぱんに膨らんだペニスの根っこをきつく縛られた。ピンクのリボンが食い込んで、先っぽがピンクに充血する。   「はは、かわいい」 「やだってぇ……」 「お前が悪いんだろ。俺のモンなのに、変な痕付けてきやがって」 「そんなん知んねーもん。元はといやぁ、さつきが……ぁ♡」    三本もの指をずっぽりと咥え込んでいる花びらのすぐそば、かなり際どい場所に颯希の唇が触れた。ちゅう、と吸い付かれ、ちろちろと舌先で愛撫される。性感帯ではないはずなのに、ぞくぞくして腰が浮いた。   「ゃ、ぁっ……♡」 「俺のモンってちゃんと書いとかねぇとな」    颯希は、千紘の体中に痕を残し始めた。鼠径部から始まり、内腿を伝って、膝から脛へ、足の裏にまで。右足が終わったら左足も同様に。優しく甘やかすように吸われると、それさえも快感になる。ただでさえ発散できない快楽に喘いでいるのに、千紘は堪らず身悶えた。    普通ならくすぐったいだけのはずなのに、足の指をしゃぶられてペニスを震わせているなんて。オレってなんてやらしいんだろ。そう思うと、それもまた興奮材料になり、一層体が火照る。   「ぁ、あっ、や……ン♡ ぅぅ、っ」    下が終わったら、今度は上だ。颯希の唇が、ペニスを縛ったリボンのすぐそばを撫でる。薄い下生えを舐められて、期待に蜜が零れる。早く、早く触って。気持ちいいとこ触って。イかして。射精させて。胸が逸り、腰が浮く。    が、颯希はそこに触れてくれなかった。しかしそれでも、最高潮まで高められた期待のせいか、震えるくらい気持ちいい。薄いお腹に吸い付かれ、ヘソをほじられて、その程度のことで後ろを締めてしまう。颯希の指を実感する。   「ふぁぁん♡ あ、ぁや、やぁぁ……」 「は、すげぇ声。気持ちいいのかよ、こんなとこが」 「ぅあ、き、もち、きもちぃ……♡」 「どうすんだよ、こんな敏感な体で。よそ行けねぇな」 「ぃ、いい、もん……さつきにずっと、してもらう、から、いーんだもんっ」 「……」    ぐりゅ、と前立腺を捏ねられた。突然の直接的な刺激に、イク寸前まで一気に高められた。ビクビクッと腰が痙攣して、しかしイけない。   「やぁぁっ♡ もっと、もっとしてよぉ」 「ダメ。俺はまだ満足してない」    下腹から鳩尾、そして胸へと舌が這う。後ろ手に縛られているせいで自然と胸が反ってしまい、自ら愛撫を求めるような恥ずかしい恰好になる。    乳首の周りは、特に念入りに痕を残された。それなのに、肝心の乳首は吸ってくれない。ペニスにも負けないくらいビンビンに張り詰めて、かわいがってもらうのを待っているのに、ことごとく無視されている。切ないと感じれば感じるほど、固く尖っていく。   「ち、ちくびぃ、ちくびなめてぇ♡」    もはや恥ずかしいなどと感じる余裕もなく胸を反らしてねだると、乳輪をちょこっとだけ舐めてくれた。   「んンっ♡」    ピリピリと電気が走ったみたいに腰が痺れた。ナカがきゅううっと収縮して、颯希の指先がちょうど前立腺を掠めて、それがまた気持ちよくて。もっとよくなりたくて、ナカが勝手にぎゅうぎゅう収縮するが、イクには足りず切なさばかりが募る。   「ゃら、ぁ♡ もっとしてっ、いれてぇっ♡」    颯希は、海老反りに反り返った千紘の腰を抱き寄せた。   「そんなにイキてぇか」 「い、きたぃ、いれてぇ……」 「淫乱」    颯希は、うっとりと凶悪な笑みを浮かべて唇を舐めた。その仕草は食事前の肉食獣のようで。これから食われるというのに、胎の奥が疼いてやまない。    颯希が服を脱ぎ捨てる。いつ見てもいい体をしている。男らしく引き締まって、洗練された大人の体をしている。この逞しい腕に抱かれる幸福を、颯希にチョコを寄越した女共は知らないのだ。千紘のささやかな優越感と独占欲が満たされる。    颯希の手がサイドテーブルに伸び、小さなチョコレートの箱を――いや、あれはお菓子ではないのだった。こんな時まで颯希は律儀だな、と千紘はぼんやりした頭で思う。   「な~……ナマですればぁ?」 「アホ」 「だってぇ、おれってさつきのモンなんだろ? ナカにもいっぱいアトつけたらいーじゃん。おれのぜんぶ、さつきのモンにしてよ」 「……」 「ね? さつきのモンにして……?」    がっしと膝を抱えられ、大きく股を広げられた。恥ずかしさよりも、いよいよ挿れてもらえるという悦びが勝った。ヒクつく花びらが蜜を零す。   「ぁは、ゃ、はやくぅ」    待ち切れなくて、犬みたいに舌を突き出して涎を垂らす。腰をくねらせ、一生懸命颯希を求める。   「な、ぁぁ、はやくぅ♡」 「焦んな」    ちゅぷ、と先っぽがキスをした。ぬぷ、と丸い亀頭が埋められる。   「ぁ゛――ッ!」    はくはくと口を開いても、息ができない。チカチカと目の前に星が降った。イク、イキたい、イキそう、もうイク、イッちゃ……!   「まだだ、千紘。まだイクな」 「ひ――」    颯希の声で現実に戻ってきた。絶頂スレスレのところまで性感が高まっているのに、千紘はまだ達せずにいた。    ピンクのリボンで戒められたペニスが、勃起したままぶるぶる震えている。刺激を追いかけて、前立腺が痙攣している。なのに、何も吐き出せない。どこへも行けない。狂おしいほどの快楽に犯され続けている。   「んゃあぁ゛、なんれぇっ!?」 「朝までイかせねぇっつったろ」 「やっ、やだぁ、いきたいっ、いきたいぃ……っ!」    颯希は苦しげに眉を寄せる。颯希だって、限界ギリギリの瀬戸際で、意地を張って堪えているのだ。本当は奥まで突っ込んで、ズコバコ蹂躙したいと思っているくせに、千紘を焦らすことを優先している。   「ほら、浅いとこ好きだろ。擦ってやるから」 「やっ、ひ♡ きもひぃけどぉっ」    にゅぷ、にゅぷ、と濡れた音を立てながら、緩慢な動きで亀頭が出たり入ったりする。花びらが広がって、縮んで、また広げられて。だけど、前立腺には届いてくれない。    もうほとんどイッてるはずなのに、どういうわけかイけてない。もうあと一押しでイけるところまで昇り詰めているのに、天井を僅かに突き破り切れない。もうちょっと、あとちょっと、でもイけない。    絶頂の瀬戸際を行ったり来たりする、危うい快楽が堪らない。イけそうでイけないもどかしさが身を焦がし、より性感を煽る。苦しいのに、気持ちいい。苦しいのが気持ちいい。頭も体も、とっくにぶっ壊れている。千紘は身悶え、かぶりを振った。   「もぉや♡ きもひぃのやっ♡ いかせてぇ……っ!」 「まだだ。もうちょっと」 「じゃ、じゃあっ、手のりぼんとってぇ! さつきにぎゅってしたいぃっ♡」 「……っ」    颯希は、眉間に深く皺を刻んだ。険しい顔をしながらも、千紘の戒めを解いてくれた。両手がようやく自由になるが、痺れていてすぐには颯希に抱きつけない。   「ぁは、ぁ、さつきぃ……♡」 「……っとに、お前は――!」    一瞬の出来事だった。それまで浅いところをくすぐっていただけの熱の塊が、勢いよく最奥に叩き込まれた。どちゅん、と奥を抉られた衝撃で、千紘はトコロテンに至った。    何が起きたのか、よく分からなかった。解放されたばかりのペニスが震え、ぴゅっぴゅと精を噴いている。   「あ゛っ、んゃ゛っ、まっへ、まっっ♡」    一度イけば解放されると思っていたけど甘かった。絶頂がいくつもの波となって押し寄せて、千紘はただその波に押し上げられて昇り詰めて、波が引いたと思ったらまた高みへと押し流されて、その繰り返し。果てない快楽。終わらない絶頂。脳神経が焼き切れる。   「さつきっ、さつきぃっ♡ ぎゅうってしてぇぇ♡」 「くそ……っ、かわいい……!」    颯希は悔しげに舌打ちをして、強く抱きしめてくれた。抱きしめながら器用に腰を使って、奥を突いてくれる。前立腺を穿ってくれる。おかしくなるくらい気持ちいい。気持ちいいの終わってほしくない。ずっとイキたい。イキ続けたい。   「あっ、あぁんっ♡ やんっ、んぁぁ♡」    激しく突かれながら、首筋を吸われる。キスマークは所有の証だ。颯希の刺すような独占欲を鋭敏に感じ、体が悦ぶ。千紘も、一生懸命颯希の体を手繰り寄せてしがみついて、首筋に吸い付いた。    千紘が颯希のものであるなら、颯希の全ては千紘のものだ。他の誰も、颯希にチョコを寄越した女のうち誰一人として、こんなにも乱れた颯希の姿を知る者はない。    十も年下のクソガキ相手に腰を振って、夢中でキスをして、所有のマークをたくさん残して、そんな颯希の姿を知っているのは、この世に千紘だけで十分なのだ。    千紘は、自分が思いのほか颯希に執着していたことを自覚した。本命チョコはもちろん、たとえ義理チョコであっても、本当は全部断ってほしかった。家に持って帰ってきてほしくなかった。その辺のゴミ箱へ捨ててきてほしかった。    でも颯希のことだから、食べ物を粗末にはできないとか言うんだろうなぁ。   「こら、他んこと考えんな」    ぢゅう、と乳首を吸われた。そんな些細な刺激で、敏感になりすぎた体は容易く絶頂する。きつめに吸った後に優しくぺろぺろ舐められると、甘やかされているみたいで堪らなくなる。それでまたイク。   「や゛ぅぅ゛――♡」    かりかりと乳首を甘噛みされて、ぬりゅぬりゅと頂を舐られる。乳首がペニスになったみたいに、全ての肌感覚が一極に集中している。    乳首イキなのか中イキなのか、もはやよく分からない。初めて覚える重厚な絶頂に圧倒される。千紘はただ、嬌声を上げて善がり狂うばかり。    突き上げが一層激しくなる。力任せに奥を突かれる。もうこれ以上挿らないのに、ぐりぐりと奥をこじ開けられそうになる。ちょっと怖い。でも気持ちいい。颯希が興奮して、己の体を貪ってくれていることが嬉しい。    ベロを出せば、吸ってくれた。唾液をたっぷり絡ませて、熟れた舌を擦り合わせて、濡れた吐息を交換して。キスでイッてしまった。もう何が気持ちいいのか分からない。颯希がしてくれること全部が気持ちいい。   「っ……締まる……!」    暴れる体を押さえ込まれ、深いキスで息もできない。苦しい。違う。気持ちいい。喉が絞まる。颯希が挿ってくる。奥まで。深いところまで。心臓に達する。   「んンぅ゛ぅっ――♡♡」    チカチカと降る星の向こうに、美しい花畑が見えた。この世のものとは思えない。もしかして、ここが天国? イキすぎて死ぬなんてことあるんだ。ああでも、まだ死んじゃ困るのに。まだまだいっぱい、やりたいことがあるのに。    はっと千紘は息を吹き返した。よかった、死んでなかった。胎の中にはいまだ颯希が埋まったまま。胎の奥にはじんわりと温かい感触が広がっている。よかった、ちゃんとナカに出してくれたんだ。嬉しくて、力の入らない腕で力いっぱい抱きついた。   「きもちぃ、かったぁ……♡ すき♡」 「……」 「さつきぃ……?」    いまだ縮まずにいる熱杭が抜けていき、そうかと思うと、再び奥へと押し込まれた。   「ひゃ゛んっ!? ふぁ? ぁえっ??」 「はぁ……お前、なんでそんなにかわいいんだよ」 「かわ? え? えへへ」 「照れんな。かわいいから」 「えへぇ? だってぇ、うれしーしぃ」 「かわいい。好きだ」 「ぇあ? あっ♡ え?」 「好きだ。かわいい。愛してる。千紘だけだよ」 「あっ? あゃ♡ あ、ンぅぅ♡」    チョコレートよりも甘い声で、生クリームよりも甘い言葉を囁かれながら、胎の奥をとんとん叩かれる。    始めはゆっくり優しく甘やかすように。だけどだんだん強く、激しく、胎内を蹂躙される。奥に出された白濁が掻き混ぜられて、ぢゅぷぢゅぷといやらしい音がナカで響いている。   「予定変更だ、朝までイかす。千紘の全部、俺にくれるんだろ?」 「んぁっ♡ やっ♡ あぅぅん……♡」    うっかりすると意識が飛んでしまいそうだった。ふっと意識が遠のく度、貫かれる衝撃に目を剥く。だけどまたすぐに視界が白む。その繰り返し。どこからが夢でどこからが現実か、境界線が曖昧になっていく。    熱々の鍋に放り込まれ、くつくつ煮込まれているみたい。過ぎた快感に、心も体も蕩けていく。このまま溶けて、どろどろのホットチョコレートになっちゃって、颯希に飲み干してもらえたら、これほど幸福なことはない。    なんて、そんなことを考えるくらいにはダメになっていた。    そして、とうとう電池が切れた。

ともだちにシェアしよう!