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第六章 番外編 会えない時間が③

 電話でするエッチ、すごかった。あの日から、千紘は毎晩一人でしている。電話しながらはさすがに恥ずかしいから、話し終わった後にベッドに飛び込んで颯希の匂いに包まれて、颯希の声や息遣いを思い出し、颯希にかわいがってもらう妄想をしてイッている。    でも、やっぱり何かが違う気がする。物足りない。前を弄って射精するのは気持ちいい。男だから当たり前だ。でも、何かが決定的に欠けている。それがない限り、千紘は永久に満たされない。    けれども、そんな空虚なオナニーも今夜限りだ。明日には颯希が帰ってくるはず。夕食だって一緒に食べられるはず。千紘はうきうきで電話を取る。   「はぁあぁああ゛!? 帰れねーって、どーいうことだよっ!!」 「……悪い」 「だって、一週間って! オレぁ、カレンダーにバツつけて数えてんだぞ!?」 「しょうがないだろ。仕事が――」 「うるせぇうるせぇ! 仕事仕事ってぇ、オレと仕事どっちが大事なんだよっ!」 「んな……比べるもんじゃねぇだろ!?」 「うっせぇバカ! 二度と帰ってくんな!」    怒りに任せて、ガチャン! と受話器を叩き付けた。    *    朝起きて、面倒だから朝食は抜いて、二時限目から学校へ行って、旨くもない惣菜パンを食って、午後はほとんど寝て過ごし、ハンバーガーを買って帰って、一人の部屋で食う。    こんな生活も今日で終わりだと思っていたから、寂しいのも我慢して頑張っていたのに。出張が予定よりも延びるなんて、考えてもみなかった。    今日は電話は来ないかも。昨日理不尽なことでキレちゃったから、きっと颯希も怒っただろうな。仕事だからしょうがないなんて、千紘も本当は分かっている。    颯希だって、一人きりのホテル生活で、慣れない場所で慣れない人達と働いて、きっと疲れているはずなのに。千紘は、一方的に怒りをぶつけてしまったことを、今更ながら後悔した。    だけど、明日になったら。明日こそ、きっと帰ってくる。たった一日延びただけだ。明日こそ、きっと、やっと、颯希の腕に抱かれて眠れるんだ。   「……はぁ……」    頭の中が颯希で埋め尽くされる。昨日はあんなことを言っちゃったけど、本当は一刻も早く帰ってきてほしい。帰ってきて、その腕に抱きしめてほしい。頭を撫でてほしい。キスしてほしい。   「う゛~~」    悔しいけど、好きだ。会いたい。たった一週間会えないだけで、こんなに寂しいなんて。颯希と出会わなければ、恋をしなければ、知らなかった感情だ。    喪失感を埋めたくて、千紘は颯希の枕を抱きしめる。こんなもの抱いたって、到底颯希の代わりにはならないけれど。何もないよりはマシだ。寂しさを紛らわせたい。    頭で思うより先に、手が下腹部に伸びていた。下着の中に手を突っ込んで、恐る恐る蕾を撫でる。   「ぅ……」    颯希はいつも、どんな風にしてくれていたっけ。そうっと表面だけ撫でてみる。   「う~ん……?」    合っている気もするし、間違っている気もする。気持ちいいというよりは、ただくすぐったい。    そうだ、ローションを使わなきゃ。ベッドサイドの引き出しの二段目に、ローションやらコンドームやらがまとめて収納してある。千紘は邪魔な服を脱ぎ捨てて、尻にローションをぶち撒けた。   「ひゃっ……」    冷たい。いつもは颯希が温めてくれていたのだと知る。しかも、加減が分からず出し過ぎた。ぼたぼたとシーツに垂れる。急いで拭ってみたが、手遅れだ。汚したら颯希に叱られる。一人でしていたこともバレてしまう。どうしよう。    でも、たっぷり出したローションはぬるぬるで気持ちよく、シーツが汚れることなんてだんだんどうでもよくなってきた。明日朝一で洗濯機にぶち込んでしまえばいいんだ。そうしたら、颯希にはバレようがない。   「ん、ん……」    たっぷりのローションを塗りたくって、きつく閉じた蕾をちょっとずつ緩ませていく。ようやく中指の先が埋まると、くちゅ、と控えめな水音が聞こえてくる。ローションを馴染ませながら、ちょっとずつ指を沈み込ませていき、中を解していく。   「んふ、ん、んぅ……」    ようやっと、中指の付け根まで収まった。千紘のナカは思いのほか窮屈で、細い指ですらあまり激しくは動けない。だのに、いつもは颯希の太いのをずっぽり咥え込んで、どすどす貫かれても平気なのだから、人体ってのは不思議だ。    手探りながら、前立腺を探してみる。どこにあるんだっけ。確か、お腹側だったような。できる限り深いところまで指を沈ませてナカを探るのに、なかなか見つからない。   「ぅ゛~~」    枕に顔を埋め、尻を高く上げて腰を揺らす。くちゅくちゅとローションの粘着いた音ばかりがうるさく響いて、前立腺は掠めもしない。颯希でなくては見つけられないのだろうか。千紘の指よりも長くてしなやかな、颯希の指でないと。    いつの間にか、指が二本も埋まっていた。すっかり柔らかくなったところを、激しく擦って掻き混ぜる。腰がカクカク震え、先走ったものがとろりと零れ、シーツに染みを作る。   「ん゛、んン……っ」    確かに気持ちいいのに、こんな刺激じゃ全然イけない。けれど、千紘の拙い指捌きではこれが限界だ。発散できない熱が、胎の奥に煮詰まっていく。    颯希に触れてほしい。あの手で、指で、唇で、愛してほしい。颯希に愛してほしい。もうこれ以上耐えられない。    自然と、左手が前に伸びていた。後ろでイけないなら、前を擦って気持ちよくなるしかない。待ちわびた解放の時を思い、喉が鳴った。    この時、千紘はあまりにも行為に没頭しすぎていた。だから、鍵の開く音にも廊下の足音にも、全く気付けなかった。あと少し、周囲に注意を向けることができていたら、僅かでも取り繕う暇があったかもしれないのに。

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