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第16話
「机はここを使ってください。
この部屋でのロッカーはここ。
貴重品はこのロッカーか、机の鍵がかかる場所で各自です。
あ、この部屋から誰もいなくなる時は施錠してください。
基本的には誰かしらいる感じですけど、念のため。
後からきっと教頭が職員室近くのロッカーも教えてくれますから、そこを使っても良いですよ。
ジャージとか予備の着替えとか置いとくと便利です」
「ジャージって、必要ですか?」
「寒くなきゃ暫くは使わないと思います。
動きやすい、防寒、って面で着ることが多いですね。
体育祭に使って、後はそのままって人もいますから急がなくて大丈夫です」
「分かりました」
鞄を持ちながらメモを書いていると、その鞄を持たれた。
「座りな」
「あ…、はい。
失礼します…」
「“自分の席”ですよ」
笑みを含むその声。
本当に嬉しいのだと分かるから困る。
初日からゆるゆるの顔を晒すなんて…、と気を引き締める。
そうでなくとも、上がった口端で真面目な顔に見えないのだから気を付けないと。
「おはようございまーす」
「おはようございます。
本日よりお世話になります、三条…」
古津はおかしそうに笑みを堪えている。
どうかしたのかと長岡を見ると、長岡も席から立ち上がってキョトンとしていた。
「あの…」
「あ、すみません。
三条先生がどうとか…いや、三条先生がどうしたんですけど。
先週、長岡先生が、三条先生は自分たちより早く来て、本日よりお世話になります、よろしくお願いしますって挨拶をすると思う。
もう担任じゃないけど、僕からもご指導よろしくお願いしますって言ってて。
そしたら、本当にその通りに挨拶しているから」
だから先生まで立って…
振り返れば長岡はなんてことのない顔をしているが、それはここが学校だから。
感謝は帰ってから沢山伝えなければ。
「先生、ありがとうございます」
「うん。
まぁ、どういたしまして」
「三条先生。
改めて、今日からよろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げて挨拶をする。
一緒に頭を下げてくれる人がいるだけで、学校へと足を踏み入れてからドキドキしていた胸は少しだけ安心した。
そして、今と同じことをもう一度繰り返す頃には、キリッとさせていたはずの顔はいつものだらしないものへと戻っていた。
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