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第21話
「もらっちゃいました」
「有り難くいただくか」
「はい」
先ほど降りた階段を上がっていると昼を知らせるチャイムが鳴り響いた。
場所のせいなのかやけに大きく聞こえる。
生徒が居らず、音を吸収するものがないからだろうか。
「昼だな。
昼飯どうしますか。
買いに行くならコンビニ教えますよ」
「持ってきました。
母がおにぎりを持たせてくれて」
「なら、このまま準備室に帰りますか」
「はい」
続きを歩いているとふと窓の外が気になった。
ぼんやりと曇った空。
帰っていく生徒たちの声。
少しずつ以前のような生活が近付いているように思える。
けど、完璧に前に戻れる訳ではない。
失われた時間は取り戻せないから。
次男の過ごすはずだった楽しい学校生活はもう2度と戻ってこないことを、なぜか強く思った。
「おかえりなさい。
お先に食べてます」
「只今戻りました」
「三条先生、ご飯ありますか?」
「はい。
持ってきました」
備え付けの小さなシンクで手を洗い、お弁当を用意する。
すると、トンッと机の上に野菜ジュースがのせられた。
「良かったら飲んでください」
「あ、俺も持ってきました。
カップスープ。
このトマト味好きで」
「俺も。
インスタント味噌汁です。
どうぞ。
お湯も自由に使って良いですから、飲んでください」
三者から渡される昼飯。
クリっとした目でそれらを見詰め、人の優しさの温度を知る。
冷たいばかりではない。
確かに温度がある。
その温度の中に弟もいてほしい。
だからこそ、自分も温度のある人でいたい。
「ありがとうございます。
大切に食べます」
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