27 / 59

第27話

コーヒーと思ったが、三条ははじめての仕事で頭が興奮しているかもしれない。 人の顔色を伺い、人の考えの先回りをし、きちんと仕事をこなす。 三条らしい美徳だが、初日からそれでは疲れているだろう。 そうでなくとも頭をフル回転させている子だ。 実家に寄った時に母親からもらったお茶を取り出す。 台湾烏龍茶のティーパック。 それをマグに入れると、お湯を注ぐ。 立ち込める香りは少し甘くて芳醇だ。 「良いにおい。 お茶ですか?」 「あぁ。 母親からもらったんだよ」 「紅茶…じゃないですね? けど、綺麗な色です」 「烏龍茶だってよ」 手洗いを済ませ、タオルで拭いている三条はにこにこと隣に並んだ。 甘い蜜香が辺りを彩る。 にこにことお茶を見下ろしている三条はマスクをつけていない。 会う時はいつもつけていたのに。 それがなんだか嬉しくて、つられて頬が緩んでしまう。 「どうしたんですか?」 「んー、触りたくなった」 手を絡めとっても三条はにこにこするばかり。 「奇遇ですね。 俺も触りたいなって思ってました」 「なら」 ちゅっと唇を触れ合わせれば、その笑顔は増すばかり。

ともだちにシェアしよう!