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第35話
にっこにこの顔で頬を膨らませる恋人を見ているだけで満足だ。
それだけで酒が飲める。
生憎明日も仕事なので飲まないが。
飲んだところで明日には響かないが、こういうのは一線をひいておいた方が楽だと思う。
それに、祝いの主役の三条が飲まないのなら、同じお茶を飲んでいたい。
「美味いな」
「はいっ。
すごく美味しいです」
手巻き寿司は米さえ酢で味付けしてしまえば、あとは刺身と海苔を用意したら良いだけで簡単なのにこのご馳走感だからすごい。
惣菜だって美味しいし、卓上はなんとも賑やかだ。
久しぶりに食べる生魚も美味いが、2人で食べるということが更に食事の美味さを格段にかえてくれる。
単純で良い。
それで恋人が笑ってくれるなら、それが良い。
「遥登のお祝いなのに俺の方が嬉しいな」
「へへっ。
俺も嬉しいんですよ」
「そういう顔してるもんな。
ほら」
ふにゃーっと緩む口元に小振りの手巻きを差し出すと、少しはにかみながらも口を開けた。
今日は三条も素直だ。
照れて自分で食べると言ったりしない。
甘やかすと宣言しているので、“今日は”素直に甘えてくれているだけかもしれない。
それでも、大きな一歩だ。
「このスーパーの肉団子美味いよな」
「美味しいですよね。
弟も好きで頬をパンパンにして食べるんですよ」
「遥登そっくりじゃねぇか」
本当に楽しい晩飯の時間だ。
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