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第43話

パソコンに向かい合っていると隣の席の椅子が動いた。 「そろそろ書店さんが来ますよ。 挨拶しましょうか」 「はい。 よろしくお願いします」 「俺が教えたいだけだから気にしないでください」 長岡は、学校では自身の事を僕と言う。 けれど、自分の前では俺になる。 大丈夫なのだろうか…と少し心配になるが、顔は教師のそれだ。 使い分けられているなら、それで良いのか。 ……やっぱり、後で聴いてみよう。 名刺の準備にお茶の準備。 教わることは沢山ある。 そして、それを丁寧に教えてくれ、実践させてくれる。 本当に有難い環境だ。 暫くすると準備室のドアをノックする音がした。 返事をすると、若い──といっても長岡より歳上そうな男性が姿を見せた。 「遅くなって申し訳ありません」 「いえ。 時間丁度です。 お待ちしてました」 三条、と背中に触れられ一歩前へと出る。 名刺の渡し方も長岡と確認した。 ドキドキする余裕があるから大丈夫だ。 「今年度から赴任しました三条です。 色々教えたいので、同席しても構いませんか」 「えぇ。 勿論です。 私、書店の吉田と申します。 新しい先生なんですね。 よろしくお願い致します」

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