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第49話
きゅっと廊下と室内用のスニーカーが音をたてた。
教職員以外の生徒はいない教室棟にやけに大きく響く。
ここに人が入れば、その音は人や置き勉の教科書、体育着に部活道具といった私物に吸収されこんなに大きくは響かなくなる。
数日後には、そんな日々が当たり前になるのがまだ少しだけ信じられない。
「戻りました」
「戻りました」
「おかえりなさい。
お先にお昼いただいてます」
仕出しお弁当を食べているのは古津だけじゃない。
朝から職員室に籠っていた五十嵐もだ。
「俺もお先に食べてます」
「お気にせず。
これ、良かったらどうぞ」
サッと空気の中に入ってしまう長岡は栄養剤やら野菜ジュースを2人へと差し出した。
こういうことがさっと出来るのが大人っぽい。
長岡は確かに大人だが、生徒と同じ目線で接してくれていた。
恋人としてもそうだ。
9歳の歳の差を感じさせない人。
だからこそ、社会人としての経験値の高さを目の当たりにすると大人なんだとドキドキする。
「コーヒーまだあったかいから飲んでください。
三条先生も」
「ありがとうございます」
椅子に腰掛ける際、ふと長岡と目が合った。
教師の顔をして、大人で、だけど見慣れた人。
袋を開きながらカラカラっと身体の向きをかえるその人はやっぱり自分の先を行くお手本だ。
早く役に立てるようになりたい。
仕事を任せてもらえるようになりたい。
まだまだ頑張ることだらけだ。
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