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第53話

しっかり綺麗に食べきり、お会計をと思うと伝票はひょいっと長岡の手の中へと隠された。 「三条先生は支払いはなしです」 「え、俺食べましたけど…」 「なしです」 すると五十嵐が外で待ちましょうと背中を押した。 先輩教諭たちはアイコンタクトだけで意志疎通をしている。 羨ましい…じゃなくてだ。 「あの、良いんでしょうか…」 「良いんですよ。 俺たちがそういたいだけなんですよ。 三条先生と早く仲良くなりたいなぁって。 それに、この前もらったお菓子のお礼もしたいですし」 春風はまだ冷たい。 だけど、ラーメンを食べあったまったお陰か外の空気が気持ち良い。 髪の毛を揺らす風がサワサワと木の葉を奏でた。 「…ありがとうございます。 ご馳走様です」 「はい。 どういたしまして」 五十嵐は穏やかに笑って頷いた。 長岡が良い人たちだと言う理由が分かる。 良い意味で大人ぶっていない。 だから、こっちも対等でいて良いのだと思える。 思えるだけでも意味がある。 心の線引きが少しだけ緩むからだ。 「それにしても、すげぇ食いましたね。 びっくりです」 「はい。 食べるの好きです」 「美味しそうに食べるのも良いです。 つい、食べさせたくなっちゃう。 あ、来ましたよ」 暖簾を潜る古津と更に身を屈めて潜る長岡。 「お待たせしましたー」 「あの、ご馳走様です」 深く頭を下げる三条に2人も同じ様に穏やかか笑顔を返した。 「どういたしまして。 さ、帰って午後からの会議の準備しましょう」

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