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第56話
「またなんかしてたろ。
洗濯だけで良いって言っただろ」
「特になにもしてませんよ」
「ほんとかぁ?」
「はい」
蛇口なんて気が付かないだろう。
そもそもそんなに汚れていなかったし。
「じゃあ、なにしてたか俺が気が付けたら土日は期待しよっかなぁ」
「っ!」
ニヤニヤと口元を緩めても下品じゃないのは、その顔立ちのお陰だ。
パーツが整っているということは利点しかない。
少なくとも、自分にとっては。
「奉仕な」
「掃除と洗濯します…」
「遥登しか出来ねぇやつがあんだろ」
「……なんのことでしょうか…」
軽口を叩く長岡と共にリビングへと戻り、今度は暖房を点けていなかったことを指摘された。
どうにも長岡の部屋で1人で勝手をするのは慣れない。
電気は点けれる。
テレビは微妙だ。
冷蔵庫を開けるのは最低限のみ。
通い慣れた部屋だ。
目を瞑っても積ん読の間を歩ける。
だけど、それとこれとは違う。
少なくとも自分にとっては。
調理スペースにレジ袋を置き、両頬を指で摘ままれる。
「あったかくして、体調管理するのも仕事の1つだぞ。
誰かが休めば、授業もフォロー内容になるんだからな」
「あ…」
言われてみればそうだ。
授業は個人の仕事よりも最優先事項であり、他学年の授業と重なっていない人がフォローすることになる。
結果として、誰かの仕事時間を50分もまるっと奪ってしまうことになる。
それだけは避けなければ。
「気を付けます」
摘ままれていて少しゴモってしまうが、それでも伝えた言葉に長岡は笑った。
長岡は最近特にご機嫌だ。
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