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第68話
「はじめまして。
今年度よりお世話になります、三條遙登です。
担当教科は国語です。
はじめての赴任先で緊張していますが、みなさんと勉強が出来ることを楽しみにしています。
よろしくお願いいたします」
ステージの上で自己紹介をしているのは同僚だ。
元教え子の。
すごく感慨深いものがある。
制服に着られていたのは出会ってすぐの頃。
次第に笑顔が増えていき、友達と楽しそうに過ごしていた。
秋の終わりからは傷付いた顔も沢山見た。
泣いて、怯えて、それでもやめことはせずに。
そして、雪が降る頃──クリスマスに恋人になった。
こんな自分を愛してくれた。
そんな奇跡をくれた子だ。
教師になりたいとはじめて言われたのは二者面談。
あの日の真っ直ぐな目は今でも覚えている。
どこまでも真っ直ぐ、凛とした目。
それからは大変だった。
大学に進学したは良いものの、感染症で半分はオンライン授業。
なんとか教育実習は出来たが、予備授業等の経験が少ないと本人は気にしていた。
だが、目の前でにこにこしながらしっかりと話す三条はどうだ。
立派な“教師”の顔だ。
先程入学式を終えた生徒たちの後ろ姿を見たが、その背中を見ていたのはもうずっと前の話。
それを改めて実感する。
こんな風に生徒の成長を間近で見ることが出来るなんて、そう機会はない。
それを許されるなんて思いもしなかった。
しっかりと目に焼き付け、頭に記録する。
きっと何度思い出しても良い景色だ。
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