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第69話

「お疲れ様」 「なにか、おかしなことを口走っていませんでしたか…?」 「大丈夫ですよ。 すごく格好良かったです」 式が終わり、三条はまっすぐに体育館の後方─自分の隣へとやって来た。 生徒たちに混じっても顕色しない顔で此方を見てくるからたまらない。 不安げで、緊張していて。 それでいて自分の近くに来ると少しだけふにゃっと表情筋を和らげる。 まるで特別だと言わんばかりだ。 まぁ、知っている人がいるだけで心強いのは理解している。 三条は公私混同なんてしない。 だから、元担任として知ってる顔に安心してくれているのは重々承知している。 それでも、思い上がりたくなるのは致し方ない。 「三条先生、お疲れ様です。 ハキハキ話せてましたね。 授業も大丈夫ですよ」 「ありがとうございます。 けど、緊張して上手く話せてないような気がして…」 他の職員からの評価も良い。 自信をもって欲しいが、身に覚えがある。 こういう時の言葉はお世辞に聞こえるんだ。 新人だから、新人にしては、甘い採点をしてもらっているんだ、と。 「そんなことないですよ。 ね、長岡さん」 「ええ。 本当ですよ」 三条は僅かに眉を潜め困ったような顔をした。 「僕はお世辞なんて言いませんからね。 言っても出世しませんし」 「確かに。 教頭になりたくないですよね」 「そうなんですか…?」 「教頭って大変なんですよ。 先生のフォローして、校長もフォローして。 だから毛根…」 あ、と口を押さえた他の職員に三条はクリッとした目を向けた。 その目には好奇心が見える。 「三条さん、また話しましょうね。 気軽に声かけてください」 「はい。 ありがとうございます」 年齢の近そうな職員はすぐに教室へと戻る人混みに紛れ消えていく。 それでも、隣には三条がいる。

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