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第111話

冷蔵庫から実家から持たされた食材を取り出していく。 食材といっても、賞味期限の長いものばかり。 疲れて帰って来てからご飯が作れないのはみんなそう。 はじめての勤務。 はじめての一人暮らし。 疲れて当然。 そんな時はレトルトをあたためるだけで充分。 コンビニご飯を食べるだけで充分。 食べれなくなって眠れたらそれで良い。 両親は優しい言葉と共に食料を段ボール一杯に詰めてくれた。 めんつゆを希釈し、冷凍の鴨肉を軽くあたためる。 有り難いもので、これも引っ越し蕎麦用にと持たせてもらったものだ。 隣へ引っ越しの挨拶はしてもないが、顔を合わせることがあれば挨拶をするくらいで良いだろう。 それでも、引っ越し蕎麦は引っ越しをしなければ食べられないイベントご飯だ。 それに関しては甘んじて食べさせてもらう。 それにしても、鴨南蛮蕎麦でも良いのだろうか。 美味しいに超したことはないが。 鍋の中が沸々としてきた頃、部屋のインターホンが鳴った。 「…はい」 「俺。 悪い、開けてくれ」 「今、空けます…っ」 ドアを開ければ、トイレットペーパーにエコバックに家庭的な姿をした長岡が立っている。 あまりにも似合ってなくてドキッとする。 「ありがとうございます。 あの、おかえりなさい」 「ん。 ただいま」 土間に片足裸足で降り、荷物を受け取りながらニヤニヤしてしまう。 自分の部屋に帰ってくる恋人、最高かもしれない。 いつも長岡の部屋への帰宅で、この部屋で過ごす時間も短い。 慣れたなんて言えるほどこの部屋で過ごしてもいない。 けれど、自分のテリトリーに恋人が当たり前に帰宅することの満足感は言葉で表しきれないものがある。 「葱も買ってきた。 余ったら俺が貰うから気にすんな。 あと、小さい牛乳とアイスも買ってきた」 「なんかそれ以外にも沢山入ってます」 「アイスは俺も食うしな。 他のも食わなきゃ俺の部屋に持ってきたら良いだけだろ」 「洗剤も」 「安かったんだよ。 1つは俺のな」 飾らない姿に、つい笑みが溢れる。

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