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第113話

湯だった蕎麦をザルにあけると、背後があったかくなった。 「どうしたんですか?」 「んー、遥登だなぁって思った」 かけ蕎麦にするつもりだが、少しだけ時間をつくりたい。 わざと水でしめる。 「そういうところ」 「なにがですか?」 満足そうな声と共に首筋にキスが降ってくる。 それから、腹に回る手がぎゅっと少しだけ力が込められた。 手を重ねようかとも思ったが水に触れて手は冷たい。 いくら長岡の体温が低くても気が引ける。 けど、少しだけ。 そっと触れると大きな手で包まれる。 自分だって手は大きいと思う 身長と共に手だって大きくなったと思うが、長岡の手は指が長くて包み込んでくれる安心感がある。 「つめてぇな。 けど、遥登の手だ」 会話がなくても良い。 飯の時間が伸びても良い。 今、長岡にこの時間が必要なら共有したい。 爪の形までなぞるようにしっかりと手を握られる。 こういう時間が積み重なっていくのが人生の交換をした意味なんだと思う。 辛いとか悲しいとか苦しいとか嬉しいとか、すべての気持ちを言語化出来る訳じゃない。 そんな時に隠さずこうして共有してくれることが嬉しい。 触れる場所から、声から、愛しいと思ってくれている気持ちが伝わってくる。 「正宗さん、大好きです」 「俺は愛してるよ」 「大人げない…」 「そりゃ、遥登とは対等だからな」

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