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第115話
いそいそと丼を運ぶ後ろ姿についていくが、向かうのはいつものローテーブルではない。
潰した段ボールの上に鍋と丼、行儀悪く割り箸を渡し橋し置く。
床に直置きは気が引けるからだ。
三条はそのまま腰を下ろすこともせず、サッと手にしたものを握り締める。
反対に腰を下ろす長岡に向かい合うと、息を1つ吐き出した。
「あの、こんなタイミングですが…」
握り締める手のひらをゆっくりと差し出す。
自分がされて嬉しいことは、世界中の人がされて嬉しいこととは限らない。
だからこそ、人間は想像力を働かせ相手のことを考える。
考える知能の持ち合わせているかこそ、それをしないことは怠慢なのかもしれない。
「合鍵、です」
「良いのか?」
「持っててほしいです。
何かあった時とかも便利ですし…」
実家より近くに住んでいる長岡の方が持っている利点がある。
例えば、体調不良。
まぁ、そんなものは建前だ。
理由はもっと至極簡単だ。
「そうじゃなくて…いや、それもあるんですけど…」
こんな悪用出来るものを渡してもらえるほど信頼してもらえていることも、さも当然のようにおかえりと言ってもらえることも。
長岡と自分の2人だけの完結がとても嬉しい。
そして、息が出来るという感覚をはじめて知れた。
当たり前に息をしていて、だけど子供だからとか同性だからとか、そういう世界が当たり前に建前に用意するものを長岡は見ず自分に向き合ってくれていて。
それを知れて、漸く自分が呼吸をしていたことに気が付けた。
当たり前のようにしていることだからこそ気が付けないものを長岡は教えてくれる。
「持っててほしいです」
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