116 / 122
第116話
大切そうに鍵を包まれる。
「ありがとうございます。
はじめてだよ。
大切にするな」
「はじめてなんですか?」
「はじめてですよ。
信じてねぇな」
この顔で恋人がいなかったとは思えない。
以前お付き合いしていた人がいても驚きはしないというか、あの時まで付き合ったことがないなんて逆に不健全だ。
セフレがいたと言われたらそれはそれで驚かないというか。
……寧ろ、自分と付き合うまで童貞なんて方が意味が分からなくて嫌だ。
「なに考えてんだ?」
「いえ」
「嬉しいんだな」
「合鍵ですか?」
穏やかな目が伏せられ、睫毛の陰が落ちる。
セックスの最中は男らしいと感じるが、こうやって見るととても綺麗だ。
美人な男性…とでも言うのか。
けど、そんな見た目よりその目が嬉しい。
目は嘘を吐けない。
一瞬に素が出てしまう。
「俺も嬉しいです。
正宗さんが嬉しいって思ってくださることも、正宗さんが子供の俺に合鍵をくださったことも」
お揃いだな、と笑うその顔も。
「冷めますから、食べませんか」
「うん。
そうだな」
鴨と葱をのせ、更に刻んだ葱をのせる。
トッピングは多くて困ることはない。
「葱だくだな。
美味そ」
「正宗さんが沢山買ってきてくださいましたから」
「んじゃ、いただきます」
「いただきますっ」
2人で手を合わせ、少しだけ冷めてしまった蕎麦を食べる。
ともだちにシェアしよう!

