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第130話

ぼんやりと覚醒した頭のままあたたかいものに抱き付くと、顎や鼻先が擽ったい。 遥登だ。 そう思った。 なんだか目を開けるのが勿体ない。 このまま目を閉じていたら、目を覚ました三条が甘えてくるかもしれない。 まだ完全に覚醒せず、ぼんやりする頭で思うのは、そんな甘えたこと。 新学期の準備は粗方終わっている。 最初は自己紹介、それから確認テスト。 授業よりは簡単だ。 増して、新入生のテスト範囲は中学校。 試験勉強でしこたま覚えたところなので、足並みを揃えるのも難しくはない。 2、3年は、差がでてくる頃だ。 どうしても、好きや苦手以外に、得意不得意という己の感情ではどうすることも出来ない部分も目立ってくる。 それを少しでも和らげたい。 古典は面白いと思ってもらいたい。 この国の美しい言葉だ。 表現だ。 話だ。 ずっと続く意味を持っている。 それを知ってもらえたから。 だから、こんな我が儘を思うんだろう。 『俺、教師になりたいです』 有言実行したんだよな ほんと、遥登らしい こんなブラックな仕事。 けど、最高にしあわせになれる仕事でもある。 どうしても、嫌な面も見えてしまう。 ニュースやSNSではこの職業の悪い面も大きく取り扱われる。 それでも嫌なことばかりではないのは実体験だ。 どうか、この子にとって苦しいだけの仕事であってほしくない。 傷付けるだけの──この仕事を選んだことを後悔するようなことは…。 サラサラした髪の上から、頭を撫でる。 大丈夫であるように。 らしくないと思う。 けど、それだけ恋人が大切なんだ。 信じていないとか、そういう意味ではなく。 だから、1つだけ呪いだ。 ──ちゅ 額に唇を寄せると、今週何事もなく過ごせるようにと願う。 この子らしくいられるように。 らしくないなんてどうしでも良い。 それで、笑顔が見られるなら笑ってくれ。 ふとんを肩まで引き上げ、もう一度このしあわせの中を揺蕩う。 今度こそ起きたら、遅い昼飯でも準備しようか。

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