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第137話
廊下を静かに進む。
教室の前方から覗くと生徒達が更に緊張してしまうので後方から見るため、1度1階降りてからぐるりと回って来た。
なんだか手間ばかりを選ぶのは落ち着かないからだ。
らしくない。
そんなの自分が1番分かっている。
俺が緊張してどうすんだよ…
遥登が1番緊張してんだから、俺は落ち着け
遥登なら、大丈夫だろ
あの遥登だ
それだけは自信がある。
なにせ、最高の自慢の教え子だ。
そんな子がふざけた教師になるはずなんてない。
各教室から聞こえてくる声の中に、聴き慣れた声が混じる。
「はじめまして。
1年間、みんなさんの国語を担当します。
三條遙登です」
他の音等聞こえない。
ただ、真っ直ぐな声が耳に届く。
凛とした声。
随分と低くなり落ち着いた声が、あの頃の色はそのままだ。
その声が、しっかりと名を述べた。
そして、国語総合を担当すると。
「次は、みなさんに自己紹介お願いします。
名簿順に五十嵐さんからお願いします」
それから名簿の名前と顔を照らし合わせる為、自己紹介をお願いしている。
不思議だ。
小さな机に座っていた生徒が、教師として教壇に立っている。
そして、それを同じように職場でこうして見ている。
子供の成長は早い。
とても。
とってもな。
大人が想像するよりうんと早い。
自分の時の事をすっかり忘れてしまっている。
にこにこし、丁寧な口調で、きちんと進めている。
三条らしい。
「みなさん自己紹介、上手ですね。
すぐに覚えられます」
「先生の事も覚えられるよ。
細いもん」
「本当ですか。
覚えたら声もかけてくださいね」
なんとなくで選んだ教職の道。
教師をしていて、嬉しいと思う事は多々あった。
三条が教師の道を選んだ時。
自分の教えた古典のロマンが繋がった時。
A組のみんなの進路が決まった時。
離任式にA組が駆け付けてくれた時。
だけど、それを上回る気持ちが込み上げてくる。
言葉にするのは難しい。
なんと言葉にしたら伝わるか分からない。
ただ、胸がいっぱいで言葉に出来ないんだ。
嬉しい。
寂しい。
おめでとう。
ありがとう。
頑張れ。
負けるな。
ここにいるぞ。
大好きだ。
それらを全部混ぜても足りない。
三条はとても大人びた顔をしている。
恋人とも違う顔で。
あぁ、やっぱり……
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