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第145話

授業が終わって友達と別れる。 電車に揺られ、家を通りすぎて。 向かう先は保育園。 「三条です。 ありがとうございま…す」 お迎えに行くと、綾登はすぐに脚に抱き付いてきた。 こんなに素直に甘えてくるのは珍しい。 兄にではなく、自分にだ。 いや、俺にも甘えてくるが、いつもはこんなベッタリじゃない。 「どうした?」 「おうち、かえる」 喧嘩でもしたのか?と先生を見るがそうではなさそうだ。 そればかりか、先生も少しずぐっちゃってて…と困惑するばかり。 しゃがんで視線を合わせようとしても抱き付いてくる。 見えた顔は泣いた感じもない。 いつものように頬を膨らませて怒ったり拗ねてるわけでもない。 「だっこな」 いつもなら自分でさせることも今日ばかりはさせない。 そういう日も大切だ。 頑張れない日があるなんて当たり前。 兄ちゃんだって勉強せず横になってるだけの日もあった。 大人だってそうなんだから、子供もそれで良い。 帽子を被らせ、スクールバックはリュックと共に肩にかける。 「さよなら。 ばいばい」 小さな手を掴むとヒラヒラと振らせる。 挨拶もしないなんて、本当に珍しい。 こういう時、兄や両親なら車で気分転換させてあげられたのかもしれない。 駅からそのままお迎えに来た自分にはどうすることも出来ないが、コンビニにでも寄るべきだろうか。 公園より情報量で黙らせる……のは不健康か。

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