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第165話
帰宅時間はすっかり遅くなってしまった。
薄暗い中を朧月が照らしてくれる。
腹が減った。
腹が減りすぎて、あの漫画の主人公になりそうだ。
急ぐ足でしっかりと地面を踏み締める。
落ち着かないのは腹のせいだけではない。
スーツのまま長岡の部屋の呼び鈴を押した。
ずっと変わらぬ癖。
それを咎める人はいない。
寧ろ甘やかしてくれる。
「おかえり」
「遅くなりました…」
「終われたか?」
「一応は。
キリの良いところまでは終われたかと」
休みを挟むので出来るところまでは終わらせてきたつもりだ。
勉強はしないとだが、休めるはず。
けど、休むよりなにより、長岡に会いたかった。
だから着替えもせずにこの部屋へと直帰したんだ。
長岡が抱き付いてくる理由が解った。
きっとこんな気持ちだったんだ。
「飯にする?
風呂にする?」
「正宗さんが良いです」
靴を脱ぐこともせず、ぎゅっと抱き付くと良いにおいが抱き締め返してくれる。
柔軟剤のにおいと長岡のにおい。
それから、その奥に美味しそうなにおい。
「魚のにおいがします」
「目敏いな。
晩飯は鯖だぞ」
「美味しいです」
「ははっ、美味いな」
そう付箋に書いたのは自分なのに、嬉しくてたまらない。
こんなしあわせなら空腹ぐらい耐えられる。
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