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第9話 欲しくてでも欲しくない

 オメガの発情期は、個人差はあるもののおおむね五日から一週間ほど続くらしい。  特に二日目と三日目は薬を飲んでもきかない、と聞いていたけれど、俺は大丈夫だと思っていた。  いいや、そう思いたかったんだ。  真弘さんが帰った後、俺は心臓が鷲掴みにされるような感覚を覚え、やばいと思いベッドへと急いだ。  その理由はすぐにわかった。  匂いだ。  真弘さんの……アルファの匂いがわずかに漂っている。  普段気にしたこともない真弘さんの匂いに、こんなに興奮するとかあるかよ……?  さっき真弘さんが来たときは大丈夫だったのに。  俺はベッドに倒れ込み、荒い息を繰り返してきているズボンを下着ごと下ろした。  ペニスはすでにがちがちになって、先走りを溢れさせていて後孔からは愛液が溢れ出ている。  なんだよこれ。  俺は……アルファなはずなのに、アルファの匂いに充てられて欲情している事実が俺の心をかき乱す。 「ふ、あ……」  俺はペニスに手を伸ばして扱き始めた。 「んン……あぁ……」  足りない。  昨日、ペニスを挿れられたときみたいな刺激が欲しいのに…・・・扱いてもぜんぜんイける気がしない。  でも俺は、尻に突っ込むような玩具を持ってない。  当たり前だ。  俺は、アルファとして生きてきたから。そう生きたいと思って来たから。  でも運命って残酷だよな。  なんでこんな体に生まれたんだよ、ただのアルファなら、ただのオメガだったらこんな苦しみを味合わなくて済んだのに。 「ん……あ、ン……イきたい、イきたい、よお……」  信じられないほどの甘い声を漏らしながら俺は四つん這いになり、頭をベッドに押し付けて尻に触れる。  やばい、穴がひくついてる。  俺は耐え切れず、愛液を溢れさせる穴に指を突っ込んだ。 「あぁ……」  指を挿れただけでそこから快楽が這い上がり、穴が収縮して指を締め付ける。  もっと欲しい。でも挿れられるようなものは何も持っていない。  ……違う、欲しいのは玩具じゃない、欲しいのは昨日のペニスだ。  神宮寺さんのペニス……気持ちよかった。  イきたいよぉ。  でも俺、神宮寺さんの連絡先を知らない。  わかっているのは……真弘さんの連絡先だけだ。  誰でもいい、この穴を埋めてくれるなら。  欲しいよぉ……  でも俺、アルファなのに……  今ここにいるのは、発情したオメガなんだ。  だからペニスが欲しいのは当たり前だし、穴に何か突っ込みたいのも普通の事じゃないか。  アルファとしてのプライドと、オメガとしての本能の間に気持ちが揺らぐ。  真弘さん……神宮寺さん……  ふたりの顔を思い浮かべながら俺は、オナニーをし続けた。  どうにか真弘さんが持って来てくれたご飯を食べて、翌日も気だるい朝を迎えた。  まだ三日目。  薬はちゃんと飲んだけど……効いてくれるだろうか。  不安に心が押しつぶされそうだった。  結局、自分でいくらいじってもイくことはできなかった。  頭の中はセックスでいっぱいだけどでも……アルファとしてのプライドがそれを許さない。  ネットで簡単に玩具を買える。  言えばきっと、真弘さんは俺の相手をしてくれるだろう。  でも俺は玩具を買うことも、真弘さんんこいねがうこともできなかった。  もし自分で玩具を突っ込んでオナニーをするようになったら戻れなくなりそうだから。  俺はまだ、アルファとして生きるのか、オメガとして生きるのか決めていないし、決められない。  発情期さえ来なければこんなこと、考えなくて済んだのに。  神宮寺さんが現れなければ俺は、アルファとして生きていくことを選べたかもしれないのに。  でも出会っちゃったんだよな、俺。  運命の番ってやつに。  神宮寺さん……  あえて連絡先を聞かなかったことが悔やまれる。  聞けなかった。だってもし聞いてしまったら俺はきっと、否が応でもオメガとして生きることを選択させられそうだったから。  神宮寺さんの、チャンスが欲しい、って言葉が耳の奥に響く。  でも今の俺に、オメガとして生きる覚悟はなかった。  そして俺が連絡先を知っているアルファはひとりしかいない。  でも真弘さんは従兄だ。  従兄と関係を持つとかできない。できるわけがない。  でも今日も、真弘さんは来るって連絡が来た。  ご飯を持って来てくれると。  断ったけど、大丈夫だから、といって聞いてくれなかったな……  正直ご飯はありがたいんだけど。  昨日、真弘さんが帰ってから、本能に支配されてオナニーしたことを考えると正直顔を合わせたくなかった。  ドア越しにやりとりすれば大丈夫かな……  そんなことを考えているうちに時間は過ぎそして、チャイムが鳴り響いた。

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