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第13話

 遠山の家で飲み直したいという言葉に、いいと答えてしまったのは、遠山のコースターが気になったからだ。遠山のグラスの下には赤いコースターがある。これ以上、踏み込んでしまったら、ダメなのかもしれないが、好みの見た目をした遠山が、赤を選んでいるのなら、もしかしたら遠山は攻める側なのではないか、という興味とある種の期待みたいなものが朝霞の中に湧いてしまったのだ。  そんなことを自分から求めることなど、朝霞の性格では出来るはずもないのに、そうだったらと考えてしまうのは、隣人の影響なのかもしれない。 「あ、琉唯さん」  遠山の声に視線を移動させると、着替えて来たのかステージの時とは違う服装になった琉唯と、聖也、正臣がテーブルにやってきた。 「いらっしゃいませ。渚、どうだった?聖也は雰囲気が違うだろう?」 「琉唯、普段とは違うんだよ。こっちは店用ですから。こんばんは。聖也です」 「二人とも終わったから連れて来た。ショーは楽しめましたか?」  三人は順番に遠山に声をかけ、隣にいる朝霞にも挨拶をしてきた。 「ああ、はい。初めてだったので少し驚きましたが」  朝霞は素直にショーの感想を伝えた。本当に初めてだったから、かなり驚いたのだ。反応してしまったのは、計算外だったけれど。 「さすがですね。バーで聞いたときより本格的で、ビックリしました。聖也さんなんてキャラが違い過ぎて」 「渚、それは秘密だよ。そういう渚も、今日は雰囲気が違う…」  遠山の言葉から察するに、この聖也という青年は店用のキャラクターみたいなものがあるらしい。聖也が遠山の雰囲気が違うと言い出したところで、佐伯が口を挟んだ。 「聖也、先に仕事に戻れ。琉唯も。渚、じゃあ、またな。お邪魔しました。ごゆっくりどうぞ」  佐伯は琉唯と聖也に仕事に戻るよう指示を出すと、遠山と朝霞に挨拶して、テーブルから離れた。    店を出てタクシーに乗り込んだ朝霞と遠山は、駅付近のコンビニで買い物を済ませた後、朝霞の家に向かって歩いていた。  朝霞の家は駅からそれほど離れていないから、歩いたのは五分ちょっとくらいのものだ。  「ここだ。…どうした?入らないのか?」  朝霞のマンションに着き、朝霞はオートロックにカギを差し込んで扉を開いた。中に入ってこようとせずに、目をぱちくりしてドアを見つめている遠山に朝霞は声をかけた。 「あ、ああ。すみません。考え事してて」  遠山が中に入ったのを確認して、朝霞はポストを確認した。その様子をなぜだか遠山がじっと見ていることに気が付いて、朝霞は遠山の方を見た。  遠山の視線は朝霞が開けていたポストに注がれている。すると、ふいに遠山が口を開いた。 「あの、…課長、やっぱり僕の家にしませんか?」 「え?ああ、別にかわまないが、どうした?」  突然に自分の家にしないかと言い出した遠山に朝霞は聞き返した。すでに朝霞のマンションに来ているのに、急にどうしたというのか。どちらかの家で飲みたいと言い出したのは遠山だし、朝霞は別にどちらの家でも問題はない。 「僕も、このマンションなんです。行きましょうか」  ――…え…?

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