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第14話

 同じマンションだと言った遠山は、スタスタと歩き出しエレベーターの前を通り過ぎて、一階の部屋が続く廊下へと進んでいく。朝霞も遠山の真後ろを歩いていたのだが、どんどん奥へと進んでいく遠山に朝霞は焦った。  エントランスの手前から、101、102と抜けて一番奥が朝霞の部屋、106号室だ。だんだん自分の部屋に近づいていくごとに、朝霞の不安が大きくなっていく。  ――104…ここを過ぎたら…。  朝霞の不安は的中した。遠山が足を止めたのは朝霞の部屋の隣、105号室の前だった。  ――…嘘…だ。  遠山は迷うことなくそのドアにカギを差し込み、ドアを開く。 「どうぞ」 「あ、ああ。お邪魔します」  遠山に、案内されてリビングのソファに通されたものの、朝霞の頭はパニックに陥っていた。この部屋の鍵を開け、すんなり中へと入ってきたのだ。ここが遠山の家であることは間違いない。となると、朝霞がここの所取りつかれたように聞いていたあの声の主は、遠山ということになる。  赤いコースターの意味が、分かった気がした。  朝霞は自分が聞いていたということがバレていないだろうかと気が気じゃなかった。けれど、遠山の方はそのことに触れてくる様子がない。  買ってきた飲み物をテーブルに取り出し、すぐには飲まないものを冷蔵庫にしまって、遠山もソファに腰を下ろした。 「まさか、隣だったとは驚いた」 「そうですよね。僕もかなり驚きました。ああ、そういえば昨日のデートどうでした?」  朝霞も驚いていたが、遠山も驚いていたらしい。 「ああ、谷山とのか?普通に飯食って飲んで帰ったよ。…あんな店には行ってないな」  朝霞が言うと、横に座っていた遠山がクスクスと笑い出し、そして、遠山の雰囲気が変わった。 「でも、ショー見て興奮しただろ?…お隣さん」  ――…っッ…。  雰囲気が変わったと感じた遠山の声色がわかり、発せられた言葉に朝霞は息を飲んだ。なんと答えていいかわからない朝霞に、遠山は続けて言った。 「あんた、さっきのショーで勃ってただろ?ああ、まあ、でも最近、ずっと俺の声聞きながらやってたんだから、当然か。さすがに隣があんただとは思ってなかったから、マジでビビった。ちょっと、ショー見せてあんたがどっちか探るだけのつもりだったのに」  遠山の豹変ぶりに、唖然のする朝霞を全く気にする様子のない遠山はさらに続けた。 「いやさあ、俺、あんたのことは気に入ってたんだけど、見た目的にタチかと思ってたから。どうやって落とそうかなあって考えてたんだよなあ。…でも、あんたがお隣さんなら、あんたはされたい側の人間だろ?…って聞いてんの?」 「えっ、…あ、ああ。あの、…遠山…」  遠山は色々と朝霞に話してくるが、それどころではない。遠山の話している感じでいくと、こっちの話し方がどうやら遠山の本当の姿らしいことは分かるが、それ以上に問題なのは、壁を挟んでやっていた朝霞の行為をどうやら遠山が把握しているらしいということだ。  上擦る様な声で返事をした朝霞をじっと見る遠山の視線が痛い。朝霞は思わず視線を落とした。  「こっちが本当の俺。どう?興味出て来ただろ?バレてないと思ってた?あんないい声出しといて、俺が気付いてないと思ってたって顔だな」

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